シリーズ・イタリアンの巨匠
第1回 「アルポルト」オーナーシェフ 片岡 護
素材を活かす、イタリア料理のヘルシー思想〈前編〉
日本でパスタのおいしいお店をやりたくて、ミラノの日本総領事館で5年間修業しました。あの頃は、毎日が本当に勉強でしたね。

渡辺: 片岡さんにお会いするのは久しぶりですよね。今日はよろしくお願いします。
片岡: 本当にご無沙汰です。こちらこそよろしくお願いします。
渡辺: さっそくなんですが、片岡さんはミラノの総領事館で修業されていましたよね。何年ぐらい修業されてたんですか?
片岡: ミラノの総領事館は5年ですね。
渡辺: 私もローマの大使館で働いていたんですけど、やはり総領事館では和食をつくることが多かったですか?
片岡: そうですね、確かにメインは和食でした。でも、自分としては本場のイタリア料理を勉強するのが目的でしたね。本場で勉強して日本に帰り、パスタのおいしいお店をやりたかったんですよ。
渡辺: なるほど。ちなみに総領事館では、朝・昼・晩とどんな料理を作られていたんですか?
片岡: 総領事ご夫婦は、朝は毎日パンとコーヒーでしたから、朝は料理をつくるというよりパン屋さんに買い物に行ってましたね。
お昼はイタリア食が多かったです。総領事は公邸に帰ってきて昼食をとっていました。
そして夜はだいたい和食ですね。週に2〜3回は公邸にお客さんを招いての食事会がありました。政治家とか、商社の人とか、他国の大使館の人とかを呼んで。その際もやはり和食でしたけど、たまに洋食のときもありました。
渡辺: そうですか。私もローマ大使館でだいたい同じような感じでしたけど、若い頃のそういう経験って勉強になりますよね。
片岡: 20歳の頃でしたけど、それはもう毎日が勉強でしたね。
料理だけじゃなく、ヨーロッパ文化の常識や接客マナーの基本になるようなことまで毎日しつけられていたという気がします。
食材の買い物もやってましたから、どうすれば良い食材を売ってもらえるかも学びましたよ。タバコをチップがわりに店員さんに配ってね、そうすると魚にしても野菜にしても、しっかりとした良いところを出してくれるんですよ(笑)。
昔のイタリア人は小豆や大豆を食べるというとびっくりしていましたが、今やヨーロッパでは豆乳が大ブーム。料理や食材というのは本当にグローバル化が進んでいます。

  ----- お二人とも本場イタリアで修業をされているわけですが、食材やその食べ方について日本とイタリアの相違点などありましたら教えていただけますか?
片岡: 相違点を比べて面白いのは野菜ですね。日本は根菜文化なんです。大根にしてもニンジンにしてもジャガイモにしても。もちろん葉菜だって食べるわけですけど、文化的に根菜の方が深く浸透しています。
でもイタリアは、サラダとして生の葉菜を食べることの方が多い。もちろん根菜だって食べますけど。
そして日本とイタリアで大きく違うのが豆の食べ方。日本では豆を甘く煮たりしますけど、イタリアでは絶対しませんね。
渡辺: そうそう、日本では小豆はあんこに加工するのが当たり前ですけどね。豆を甘く煮てクリーム状にして食べるなんてイタリア人には想像できないと思います。
片岡: 昔のイタリア人は小豆や大豆を食べるというとびっくりしていました。
イタリアではもともと小豆や大豆は薬のような存在だったんです。決して普通に食べるための食材ではなくて。それが最近ではヨーロッパでも普通に大豆を食べるようになってきた。これは日本や中国の影響です。
肉や牛乳によるアレルギーなどが増えていて、今やヨーロッパでは豆乳が大ブームです。
渡辺: ヨーロッパでもアメリカでも豆乳はすごく普及していますよね。日本でも最近またブームらしいですが、どうも逆輸入のような状況ですね。
片岡: イタリアでスーパーに行ったら、牛乳と豆乳で売り場が二分されているぐらいです。
少し昔では考えられなかったわけで、料理や食材というのは本当にグローバル化が進んでいますよね。
イタリア人にとってダイエットというのは人生における大きな課題のひとつ。食に対するヘルシー志向はすごいです。

  ----- 日本ではダイエットも含めて健康に気を配った食事を心がける人が増えているように思いますが、イタリアではいかがですか?
片岡: それはもうすごいですよ、昔から。いわゆる「ディエタ・イタリアーナ(Dieta Italiana)」です。
渡辺: 「地中海式ダイエット」(※)ですね。
片岡: はい、そうです。イタリア人にとってダイエットというのは、人生における大きな課題のひとつと言っていいでしょうね。だから一時期はあまりパスタを食べないという人が多かったんです。パスタを食べると太るということで。
ところがアメリカで「実は適度にパスタを食べた方が体にいいし、ダイエットにもなる」というような研究が発表された途端、今までパスタを敬遠していた人も積極的に食べるようになりました。
渡辺: あまり食べ過ぎず、きちんとカロリー計算をして食べようという動きですね。
片岡: はい。それと、今日本でもブームになりつつある全粒粉のパスタなんかもイタリアでは随分前から人気がありました。確か、ソフィア・ローレンが食べているパスタだということで話題になったんです。
渡辺: はい、はい。覚えています。
イタリアにはたくさんのダイエット食品メーカーがあって、全粒粉のパスタ、全粒粉のビスケット、全粒粉のクラッカーなど、さまざまな全粒粉製品がスーパーにいっぱい並んでいますよね。
片岡: そう。砂糖は売り場の半分ぐらいがダイエットシュガーですしね。
食に対するヘルシー志向ということでは本家本元といえるぐらいかもしれません。
  (対談は後編へ続きます。)
※地中海式ダイエット
イタリアの伝統的な食事を基本とした食事法。オリーブオイル、パスタなどの穀類、豆類、果物、野菜、魚介類を豊富に摂取するのが特徴。健康な体づくりをするためのダイエット法で、地中海地方の人々に心臓疾患などの病気がとても少ないのはこの食事法にあるといわれています。
対談の後編はこちら
片岡護
レストラン「アルポルト」オーナーシェフ
日本を代表するイタリア料理界の巨匠。ミラノの日本総領事館で5年間修業した後、「小川軒」「マリーエ」を経て1983年、東京・西麻布に「アルポルト」を開店。日本におけるイタリア料理界の草分け的存在であり、イタリア料理のアドバイザーとしてテレビや雑誌等でも広く活躍中。「和の素材でイタリアン」(講談社)など著書も多数出版されている。


渡辺陽一
レストラン「パルテノペ」総料理長
昭和59年に渡伊し、在ローマバチカン日本大使館・大使付料理長に就任。その後10年間に渡る修業を重ねイタリア国内のリストランテの料理長をも経験。帰国後も第一線のイタリアンシェフとして活躍中。得意とするのは南イタリアの伝統的な地方料理、特に6年間滞在経験のあるナポリの郷土料理。
この対談は、イタリア料理レストラン「アルポルト」で行われました。
イタリア料理 アルポルト
港区西麻布3-24-9
TEL:03-3403-2916
営業時間:昼11:30〜15:00(L.O.13:30)/夜17:30〜23:00(L.O.21:30)
定休日:月曜
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