シリーズ・イタリアンの巨匠
第4回 「アクアパッツァ」総料理長 日高 良実
南イタリアの魅力〈後編〉
ナポリのレストランって夜8時にお店をオープンしてもお客さんなんて全然来ないんですよ。10時ぐらいからやっと人が入りはじめて、いちばん混み合うのは夜中の12時ぐらいです。

渡辺: これは“南”に限った話ではないのですが、イタリア人ってとても健康を考えて食事をしていませんか?
日高: うん、そうですね。何というか、食べることに対する考え方がとてもはっきりしているという印象があります。自分の体が欲しているものを素直に食べるようにしているんでしょうね。そして、それがずっと変わらず同じものなんですよ。変わったもの、食べたことのないものというのはだいたい敬遠しますよね。
渡辺: そういうところはとても保守的ですね。日本人は食べたことのないものを食べるの好きですけど、イタリア人全般、とくに南イタリアの人はそうじゃない。
日高: “マンマの味がいちばん!”という考え方と同じなんでしょうね。
ところで、イタリアには昼食後に昼寝をする習慣がありますけど、あれは日照時間というか、太陽が照っている時間が長いからなんでしょうかね?
渡辺: そう、イタリアでは昼食後に昼寝をしますよね。
ミラノなど北イタリアではお昼に家に帰る人はあまりいないようですけど、南イタリアでは大きな会社に勤めている人でもだいたいお昼は一度家に帰っているようです。お昼から3時・4時ぐらいまで会社には誰もいなくなっちゃう…。
日高: 私がナポリのレストランでまずびっくりしたのは、多くの人が夜中12時ぐらいから食事をはじめるということでした。
夜8時にお店をオープンしてもお客さんなんて全然来ないんですよね。10時ぐらいからやっと人が入りはじめて、いちばん込み合うのが12時ぐらい。それで朝3時ぐらいまで食べているんです。
渡辺: 夜の食事が遅いのは、昼食が少し遅めだということもあるんでしょうね。ナポリの場合、お昼の食事を3時とか4時にとることも多いようですし。
日高: 夜8時にレストランのオープンとともにお店に来るのは観光の日本人ぐらいかもしれませんね(笑)。
イタリア全体でみると、ローマあたりから南に下るに従って、だんだん食事の時間が遅くなっているような気がします。
渡辺: そうですね。
ただイタリア人って確かにそういう意味では夜型なんですけど、それじゃ朝はゆっくりかというと、これが日本よりも早い。役所や郵便局は8時30分にはオープンしますし、一般の商店も9時には開いています。
つまり、イタリア人は朝早く夜も遅いので、途中で昼寝したり、休憩したりするんでしょうね。
日高: 睡眠や休息の取り方のパターンとして、そういう形の方が体に良いんでしょうね。
しかも、いちばん暑い時間帯に体を休めるわけで、生産効率としてはとても良いはずだと思います。
アクアパッツァの原型だというシンプルな郷土料理は、ものすごいインパクトがありました。食材の旨みを引き出すという部分の単純さ。これはもう衝撃的と言ってもいいくらいすごく印象的でした。

  ----- 夜中12時ぐらいにレストランが混み合うという話でしたが、夜遅い時間に食べる料理というのはどんなものなのでしょうか?
日高: 食べるものはその土地その土地で違いますけど、夜遅い時間だから軽いものしか食べないというわけではありません。そのかわり、彼らはゆっくりと時間をかけて、必ずしゃべりながら食べますね。日本人のように急いで詰め込んだりはせず、ゆっくりとよく噛んで、歌ったり踊ったりしながら…。
渡辺: “食べること=コミュニケーション”なんでしょうね。イタリア人は本当に会話を楽しみながら食事をします。彼らにとって食事というのは単に食欲を満たすための行為ではなく、楽しい時間を過ごすために必要不可欠なものなんでしょうね。
日高: 渡辺さんぐらいイタリア生活が長いと、日本での生活は窮屈じゃないですか?
渡辺: そうですね(笑)…。先ほど昼寝の話が出ましたけど、正直言うとお昼は少し寝たいです。
私は朝早く起きるのが実は好きなんですが、あまり朝早く起きてしまうと夜もたなくなるので、意識的にゆっくり寝ているぐらいです。
  ----- 南イタリアでは同じお店で修業をされたとお聞きしました。
渡辺: はい。時期は日高さんの方が早くて、一緒に修業していたわけではないですけど。
「ドン・アルフォンソ」というナポリの郊外にあるレストランです。
日高: 私が「アクアパッツァ」という料理に出会って、現在の店名にするほどインパクトを受けたのがこのレストランでした。
私がいたのはまだ(ミシュランの)1ツ星だった頃で、厨房はナポリの人ばかり。私がはじめての外国人スタッフでした。
渡辺: 南イタリアの料理を学ぶという点では、日高さんが修業されていた頃がいちばんいい時期だったんじゃないですか。
私はもうずっとあとで、すでに3ツ星になっていました。それでリフォームもしてフレンチレストランのグランメゾンのようにリッチになっていましたし、シェフもベルギー人でしたから。
日高: そうですか。その頃行ってたら全然印象違っていたでしょうね。「アクアパッツァ」という店名もつけてなかったかもしれない…。
渡辺: 具体的には「ドン・アルフォンソ」でどんな印象を受けたんですか?
日高: まず、北イタリアとは全然違うなぁということですね。私がいた頃は、洗練されたものを出そうとしていたんだろうけど、すごくダサかった(笑)。
でも厨房に入って料理をつくっているところを見てみると、とてもきれいで色っぽいんですね。とくにアクアパッツァの原型だというシンプルな郷土料理は、ものすごいインパクトがありました。
渡辺: フレンチを学ばれ、北イタリアの有名レストランでいろいろな料理を勉強されていたからこそ、南のシンプルさがとても印象的だったんでしょうね。
日高: 食材の旨みを引き出すという部分の単純さ、ですね。これはもう衝撃的と言ってもいいくらいすごく印象的でした。
渡辺: 南イタリアの料理は、あまりフォンドボーやブイヨンは使いませんよね。ほとんど水だけ。補助的に野菜のブイヨンぐらいは使いますけど、基本的に出汁をひいて旨みをつけるというような発想は南イタリアにはないみたいです。
魚の出汁を出したかったら魚を丸ごと入れれば自ずと出汁が出る、というような考え方なんでしょうね。
日高: そうですね。“単純”とか“シンプル”という言葉だけでは表し切れないのですが、そういうところに南イタリアの料理の良さがあるんだと思います。
日高良実
リストランテ「アクアパッツァ」総料理長
日本を代表するイタリア料理界の巨匠。86年イタリアに渡り、「エノテカ・ピンキオーリ(Enoteca Pinchiorri)」「グアルティエーロ・マルケージ(Gualtiero Marchesi)」「ダル・ペスカトーレ(Dal Pescatore)」など計14軒で修業を重ね、89年帰国。「リストランテ山崎」(乃木坂)の料理長を経て、90年「アクアパッツァ」(西麻布)のオープンとともに料理長に就く。2001年11月アクアパッツァの本店を広尾に移転し、現在マンジャペッシェ(東京・千駄ヶ谷 静岡・三島)、広尾アクアパッツァ・アクアヴィーノの総料理長を務める。


渡辺陽一
レストラン「パルテノペ」総料理長
昭和59年に渡伊し、在ローマバチカン日本大使館・大使付料理長に就任。その後10年間に渡る修業を重ねイタリア国内のリストランテの料理長をも経験。帰国後も第一線のイタリアンシェフとして活躍中。得意とするのは南イタリアの伝統的な地方料理、特に6年間滞在経験のあるナポリの郷土料理。
この対談は、日高シェフが総料理長を務めるリストランテ「アクアパッツァ」で行われました。
リストランテ アクアパッツァ
東京都渋谷区広尾5-17-10 EastWest B1F
TEL:03-5447-5501
営業時間:昼11:30〜13:30(L.O.)・15:00(close)/夜18:00〜21:30(L.O.)
無休

「アクアパッツァ」
ホームページはこちら
http://www.acquapazza.co.jp/
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