シリーズ・イタリアンの巨匠
第6回「ポンテベッキオ」オーナーシェフ 山根大助
私の考えるイタリア料理〈後編〉
つまりイタリア料理というのは、アスパラガスならアスパラガスの“特質・おいしさ”というものを本当に引き出す料理なんですね。もうそれしかないんです。
------ イタリア料理のヘルシーな点についてお話をいただけますか?
山根: まずイタリア人の食べ方で気づくことがあります。
日本人はいろいろなものを一緒に食べたがりますよね。前菜が魚だったら、メインは肉にしようだとか。私の知っている限りイタリア人というのは、今日は魚といったら魚だけ、アスパラガスが食べたいと思ったらアスパラガスだけ。単品勝負なんですよ。
日本人の場合、アスパラガスを食べるにしても、あれにこれにそれも…と材料を混ぜたがるじゃないですか?
渡辺: 確かに。日本人はアスパラガスだけが食べたいんじゃなくて、アスパラガスを使った何かが食べたいという感じですね。
山根: ですよね。でもイタリア人は割り切りがいいというか、今日はアスパラと決めたら本当にアスパラなんです。“アスパラづくし”というわけじゃなくて、アスパラのこんな料理が食べたい! 魚といったら今日はもう魚! 肉といったら肉! 口の中でほかのものが混ざるのは気持ち悪い! …といった感じです。
日本人は懐石料理とかがそうですが、いろいろなものがちょっとずつ出てきて口の中で混ぜるんですよ。それが不思議じゃない。
でもイタリア人はひとつを食べはじめたらそれが終わるまで次にいけない。それが特徴として料理にもあらわれていて、ある意味とてもヘルシーだと思います。
つまり、アスパラガスならアスパラガスの“特質・おいしさ”というものを本当に引き出す料理なんですね。もうそれしかないんです。いろんなものを混ぜていろんな食感を楽しむとか、いろんな混ざった感じを楽しむのではなくて、単品それだけ、なわけですから。
渡辺: 単純に考えちゃうと、いろんなものを一緒に食べた方がヘルシーだということになりますが…。
山根: 栄養学的にはそうですね。でも、私はその“特質・おいしさ”を引き出すことだけに特化したところに割り切りというか潔さを感じます。そして、そういう点がヘルシーさに通じるのではないかと思うんです。
渡辺: 「旨みを逃がさない」ということが「栄養や体によい成分も逃がさない」ということでヘルシーにつながるんですね。
山根: はい。そして、とってもピュアなんですね、味が。私の目指す料理もピュアな料理です。やたらとブイヨンで煮込んで、ああして、こうして…という料理ではなく。
渡辺: フォンドヴォーを入れて、どうして、こうして…ではなくてね。
山根: たとえば、ミネストローネは野菜を炒めてパンチェッタぐらい加えたら、出てきた水分にちょっと水を足すぐらいでしっかり火を入れて旨みを出す。素材のほかは水をちょっと加えるだけで料理はできてしまうんです。
渡辺: 山根さんの料理教室を見ていると「じゃがいもをゆでるとき、たっぷりの水でゆでるな」とおっしゃっていますよね。「必ずひたひたの水で」と。これは、お湯はゆで終わった捨てる…そうすると旨みも捨てることになるということなんですよね。
調理方法自体はイタリア料理の本質ではないから、好きなようにやればいい。でもイタリア人の好きな“組み合わせ・味つけ・香りづけ・食感”というのは確実にある。それに基づいてつくるのがイタリア料理なんだと、最近わかってきました。
山根:
イタリア料理をするということはイタリア人を知るということなんだと最近つくづく思います。
イタリア料理の素材というのは、それぞれがとてもピュアです。
たとえばパルミジャーノ・レッジャーノというチーズは1100リットルの牛乳からわずかに2個だけ作られますが、これは牛乳の中の栄養とおいしさを凝縮しています。
生ハムも豚が本来もっているポテンシャルを栄養的にも味的にも最大限に引き出しています。
そういうピュアなものを上手に使って加工するのがイタリア人というのは本当にうまい。過度に手を加えない。だから栄養が逃げないし、まずくならない。さわりすぎてまずくするということを極力避ける料理です。
フタをして蒸し煮する料理が多いですが、それは旨みと栄養を逃がさないということなんですね。水を足すこともあまりないような気がしますし、ブレゼ(蒸し煮)は鍋の外に何も出ない。最初に入れた素材が全部中に残っていて、そのおいしさを味わう料理です。
しかし調理方法は、新しい方法が出てきたらそれを使えばいいと思っています。調理方法自体がイタリア料理の本質ではないですから。ここまでは私の好きなようにやればいい。
でもイタリア人の好きな“組み合わせ・味つけ・香りづけ・食感”というようなものは確実にある。それに基づいてつくるのがイタリア料理なんだと、最近わかってきました。
その前の段階の、調理だとか、材料というのは実は何でもかまわないんだと。
香りよく、やわらかくジューシーにローストされている肉を嫌いという人は世界中にひとりもいないです。ということは、そのローストされた肉は何料理でもなく世界料理なんですね。
ただ、それをどう食べるか、どんな味つけ・香りで食べるかというのは、イタリア人にはイタリア人の好みがある。
渡辺: アジア系では醤油を使うとか?
山根: そうです。そこに差がある。それによって日本料理になり、イタリア料理になるんですね。
でも肉を焼くということは、単なる“調理”だから“料理”ではないんですよ。
渡辺: 「イタリア調理」「日本調理」とは言わないですからね。
山根: はい。これがイタリア料理について最近おぼろげにわかってきたことです。
山根大助
リストランテ「ポンテベッキオ」オーナーシェフ
日本を代表するイタリア料理界の巨匠。イタリア本国での修業を経て、1986年、大阪本町に「リストランテ ポンテベッキオ」をオープン。その後、次々とコンセプトの違う店舗をオープンし、今や国内におけるイタリアンレストランの代表格と評される。本場イタリアでの評価も高く、2002年、イタリアのベネト州で開かれたイタリア最大のワインイベントの正式晩餐会において、イタリア国外のイタリアンレストランBEST5に選出されたほか、イタリアの権威あるレストランガイドブック『ガンベロロッソ』誌において2回連続で日本のイタリアンレストランの1位に輝いた実績を持つ。


渡辺陽一
レストラン「パルテノペ」総料理長
昭和59年に渡伊し、在ローマバチカン日本大使館・大使付料理長に就任。その後10年間に渡る修業を重ねイタリア国内のリストランテの料理長をも経験。帰国後も第一線のイタリアンシェフとして活躍中。得意とするのは南イタリアの伝統的な地方料理、特に6年間滞在経験のあるナポリの郷土料理。
この対談は、イタリア料理レストラン「スッド ポンテベッキオ」で行われました。
リストランテ スッド ポンテベッキオ
大阪市浪速区難波中2-10-70 なんばパークス8F
TEL:06-6646-4000
営業時間:ランチ 11:30〜14:00(L.O.)・15:00(close)/ディナー 18:00〜21:30(L.O.)/ピッツェリア 11:30〜16:00(L.O.) 18:00〜22:00(L.O.)/バー 18:00〜24:00(L.O.)
定休日:第2・第4月曜日
「ポンテベッキオ」
ホームページはこちら
http://www.ponte-vecchio.co.jp/
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