シリーズ・イタリアンの巨匠
第7回 「アルポルト」オーナーシェフ 片岡 護
片岡流イタリアンとは?〈前編〉
少しずついろいろな料理が出てくるミラノのレストランで“料理というのは楽しまなければいけないんだ!”と気づきました。私は絶対これを日本に帰ってからやろうと思ったんですよ。

渡辺: 春に続き、再度のご登場ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。
片岡: こちらこそよろしくお願いします。
渡辺: さっそくですが、片岡さんが「アルポルト」を始められたのは何年でしたでしょうか?
片岡: 83年です。もう20年以上前ですね。
渡辺: 20年以上! もうそんなになりますか。
片岡さんが日本で大成功されて今の地位を築かれたのは、本場のイタリア料理をただそのまま日本で再現するのではなく、いかに日本人の嗜好に合わせるかということを真剣に考えられたからだと私は思っているのですが、そのあたり、ご自身ではいかがでしょうか?
片岡: ミラノで修業をしているときに「ダリーノ」というお店を見にいって食事をしたんですよ。そこは小皿料理のお店で、13皿ぐらい少しずついろいろな料理が出てきたんですね。それを見たときに、こういう日本的な感覚のイタリア料理もあるんだなと感心しました。
渡辺: 当時のミラノでそういうスタイルのお店というのは珍しいですよね。
片岡: そうですね。でも昔からそういうスタイルはあったみたいです。
前菜からメインまで、実際はお皿は小さいわけじゃないんですが、それぞれが小ポーションなんですね。小さいお肉がさらに薄切りにされて出てきたり、カルトッチョが出てきたり、大きな魚まるごと1匹の料理はみんなで少しずつ取り分けたり。
たったひとつのものをバーンとダイナミックに食べるというのが元来のイタリア料理のスタイルですよね。でも、いろいろなものを少しずつ食べて楽しむということをそのお店で見て、体験したんです。
そのとき“料理というのは楽しまなければいけないんだ!”ということに気づきました。
つまり、楽しむ方法としての小皿料理ですね。私は絶対これを日本に帰ってからやろうと思ったんですよ。
そして25歳で帰国して、もう一度ちゃんと腕を磨こうと思って小川軒に修業に出たんです。
そうしたら…小川軒も小皿料理だったんですよ!
渡辺: ああ、そういえばそうですよね。
片岡: そう。オードブルだけで9皿出るんです。それからスープがあって、お魚があって、お肉があって…それらが少しずつ出てきてちょうどお腹がいっぱいになる。…すでにやってる人がいたというわけですね。
それで28歳のとき「マリーエ」のシェフになったとき、オーナーに、私はイタリア料理をこういうスタイルでやりたいんだと言ったんです。最初は反対されましたが、結局好きなようにやらせてもらいました。私の小皿料理というのは、そこから始まったんです。
昔のイタリア人は小豆や大豆を食べるというとびっくりしていましたが、今やヨーロッパでは豆乳が大ブーム。料理や食材というのは本当にグローバル化が進んでいます。

渡辺: 先ほど「料理というのは楽しまなければいけないんだ!」というお話がありましたが、片岡さんのイタリアンというのは、やはり“楽しんでいただく”というのがキーワードですか?
片岡: その通りです。もう、理屈はいらないんですよね。イタリア料理だろうと、日本料理だろうと、フランス料理だろうと…そんなのいいじゃないかと。要するに料理は楽しめばいいじゃないかと。そういう考え方で「マリーエ」を始めたわけです。
渡辺: そしてご自身のスタイルを確立され、当時マスコミでも大評判になった「懐石風小皿料理」が生まれたわけですね。
片岡: そうですね。それがヒットしたので自分で独立してがんばってみようということで「アルポルト」を開店しました。
「アルポルト」を始めたときは何かお題目というか、コンセプトのようなものが必要だなと思ったのですが、ちょうどその頃マルケージ(※)等が話題になっていて、“ヌオーヴァ・クチーナ(新イタリア料理)”というのが業界の大きな流れになっていたんですね。
そういう中で、自分のやっていることはその流れと一致するんじゃないかと思いました。それで、新しいイタリア料理を自分の世界で築いていこうと考えたんですね。
でも、そうやっているうちに“ヌオーヴァ・クチーナ”というムーヴメント自体はだんだんすたれてしまったんですけどね。
ただ、自分は自分の料理をするということ、自分で新しい料理を創造する、創り出していくという考え方は変わりませんね。それを古典的なものでやる人もいるでしょうし、私の場合は、日本料理から学ぶ、中華料理から学ぶ…ほかにも、いろいろなところの料理を実際に食べてみて、自分の料理を創っていくということですね。
そうやってきて今がありますし、これからも続けていきます。
だから自分はずっと勉強中だし、これからもいろいろなものを食べてみたいですね。
  (対談は後編へ続きます。)
※マルケージ:
グアルティエーロ・マルケージ氏。1970年代後半、伝統的なイタリア料理に新風を吹き込み、“ヌオーヴァ・クチーナ”(新イタリア料理)の旗手として活躍。イタリアで初めてミシュランの3ツ星を獲得したイタリア料理界の巨匠シェフ。
対談の後編はこちら
片岡護
レストラン「アルポルト」オーナーシェフ
日本を代表するイタリア料理界の巨匠。ミラノの日本総領事館で5年間修業した後、「小川軒」「マリーエ」を経て1983年、東京・西麻布に「アルポルト」を開店。日本におけるイタリア料理界の草分け的存在であり、イタリア料理のアドバイザーとしてテレビや雑誌等でも広く活躍中。「和の素材でイタリアン」(講談社)など著書も多数出版されている。


渡辺陽一
レストラン「パルテノペ」総料理長
昭和59年に渡伊し、在ローマバチカン日本大使館・大使付料理長に就任。その後10年間に渡る修業を重ねイタリア国内のリストランテの料理長をも経験。帰国後も第一線のイタリアンシェフとして活躍中。得意とするのは南イタリアの伝統的な地方料理、特に6年間滞在経験のあるナポリの郷土料理。
この対談は、イタリア料理レストラン「アルポルト」で行われました。
イタリア料理 アルポルト
港区西麻布3-24-9
TEL:03-3403-2916
営業時間:昼11:30〜15:00(L.O.13:30)/夜17:30〜23:00(L.O.21:30)
定休日:月曜
シリーズ・イタリアンの巨匠 ラインアップ

イタリア料理レシピのトップへ戻る