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こなコラム
福島敦子さん
福島敦子さん
Atsuko Fukushima
キャスター、エッセイスト。中部日本放送を経て、1988年独立。NHK、TBS、テレビ東京などで報道番組を担当。テレビ東京での経済トークドキュメント「ビジネス維新」のキャスターや、週刊誌「サンデー毎日」における250人に及ぶ企業トップとの対談など、数多くの企業経営者への取材を精力的に行っている。97年には(社)日本ソムリエ協会認定のワインアドバイザーの資格を取得。ワインや食の魅力を伝える活動にも取り組んでいる。「それでもあきらめない経営」(毎日新聞社)など著書多数。
粉のあたたかみ
子供の頃、母が作ってくれた思い出の料理には、なぜか粉を使ったものが少なくない。なかでも好きだったのが、クレープだ。私が小学生の頃だから、当時としては結構、ハイカラだったと思うが、母は時々、クレープを作っては夕食に出してくれた。

家族で囲んだ食卓の上には、ホットプレートが置かれ、熱くしたプレートにバターを少しのせ、母特製のクレープ地をお玉を使って薄くきれいに焼いてくれた。そこにハムやチーズ、トマトやきゅうり、レタスといった野菜など、好きな具を組み合わせて巻き、マヨネーズを少しかけて食べた。これがとても美味しくて、私は2ヶ月に一度くらいの割合で登場する母お手製のクレープが待ち遠しくてたまらなかった。ちょっとお砂糖の入ったほのかに甘いクレープ。いい年してお恥ずかしいが、今でもふるさとの実家に戻ると、母にクレープをねだることがある。クレープを頬ばると、懐かしい味とともに、ほっとした気持ちにもなるのである。

中国は上海出身の親しい友人がいるが、彼女にとっての母親の思い出の味も、やはり粉によるものだった。ぎょうざである。母に教えてもらったぎょうざを彼女はいまもよく作っている。その上、私の家に遊びにくるたびに“一緒にぎょうざを作ろう”と、たくさんの粉の袋と豚肉やニラ、しょうがなどを抱えてやって来るのである。

キッチンのテーブルいっぱいを使って、強力粉と薄力粉を2対1の割合に混ぜ、水を少しずつ加えながら、腰を踏ん張り、肘から下を押し付けるようにしてこねていく。かなり力のいる重労働だ。途中2度ほどタネを寝かせる休憩を取りながら、さらにこねていく。こうして出来上がったぎょうざの素を今度は筒状にして少しずつちぎって、麺棒で円形に伸ばしていく。これが難しい。均等の皮の薄さで綺麗な円形にしていくにはかなりのコツが必要で、私は皮を破いたり、いびつな形にしたりと失敗ばかりを繰り返している。

皮が出来上がると具を詰める作業だ。これも容易ではない。彼女は母親直伝の鮮やかな手さばきで美しい形のぎょうざを次々に作っていく。そしてぎょうざを作っている間、ずっと母や子供の頃の思い出をしゃべり続けているのである。なんだかそれもぎょうざ作りの楽しみのひとつになっているようだ。

日本でビジネスをしている彼女は、上海に住むご主人と離れ離れの生活だが、中国に戻ると必ず大量のぎょうざを作るのだそうだ。母が愛情を込めて教えてくれたぎょうざに、今度はご主人への愛情をのせて彼女は作り続けているのである。

私のクレープにも彼女のぎょうざにも母の思い出が寄り添う。飽食の時代といわれる現代だからなおさらのこと、粉から生まれる素朴であたたかみのある料理がことのほか愛しく、ありがたく感じられる。