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こなコラム
野口健さん
野口健さん
Atsuko Fukushima
1973年8月21日アメリカ生まれ。血液型A型。サウジアラビア、エジプトなど世界各地で少年時代を過ごす。1999年エベレストの登頂に成功し、7大陸の最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、ヒマラヤ登山に欠かせないシェルパを保障する制度「シェルパ基金」や、エベレスト、富士山などの清掃登山など、登山、環境のジャンルで幅広く活躍中。2003年度、4月より4回目、最後となるエベレスト清掃活動を行う。現在は、富士山を世界遺産にするプロジェクト、環境学校による環境教育、エコツアーなどの多分野で活動中。
「野口健 公式ウェブサイト」
「NPO法人 セブンサミッツ持続社会機構」
小麦料理に隠れた生きる知恵
子供の頃、海外に住んでいたので、パスタやパンなどいろいろな小麦の料理を食してきていたように思う。そんな数ある料理のなかでも小麦と言われ特に思い出すのは、ヒマラヤ郷土料理の「チャパティ」だろう。インド料理「ナン」のようにイースト菌などを使わない無発酵の薄くのばして焼いたパンのようなもので、お米がわりに食べられている。初めてのヒマラヤから十数年経った今でも通うたびにこの素朴な味を口にする。
そもそも僕が山に登り、ヒマラヤに通うようになったのは、冒険家、植村直己さんの「青春を山に賭けて」に感銘を受けたのがきっかけだ。落ちこぼれて、自分を見失っていた高校時代に「7大陸最高峰に最年少で登る」という夢を与えてくれた。その植村さんと同じ足跡を辿りながらのチャレンジだった。5大陸最高峰を登られている植村さんと同じ山頂に立つ度にたまらなく嬉しかった。最後の挑戦になったエベレストがあるヒマラヤでは、植村さんが歩いた同じ道を歩き、同じ村できっと彼と同じ「チャパティ」を食べられたのも嬉しかった。
僕の尊敬する植村さんは、グリーンランドの遠征でも現地に住むイヌイットを倣い、アザラシの生肉を食料にしたりと現地人の持つ生活の知恵を積極的に自分の冒険に取り入れていた。野菜の取れない極寒の地では生肉からビタミン類を摂取しなければ生きていけないという。以前、白人が北極圏を冒険し生肉を食べているイヌイットを見て野蛮人と決めつけ「生肉を食べる野蛮人」といったような意味合いでエスキモーと呼んだようだ。しかし、皮肉なことに、野蛮人だと生肉を口にしなかったその白人らは、ビタミン不足で壊血病に犯され、歯ぐきから血を流しながら死んでいったそうな。イヌイットが生肉を食べるのにはちゃんとした意味がある。その土地で生き抜いてきたスペシャリストから学ぶべきことはたくさんあって、それこそがまさに生きるための知恵なのだ。
そして、ヒマラヤもやはり自然環境の厳しい場所だ。そこにもシェルパ族をはじめとしてたくさんの民族、文化が入り混じって生活をしている。現地の料理はジャガイモなどの野菜をふんだんに使い、ピリッと辛いスパイスを効かした料理が多い。これらにもきっと理由があるのだろう。
僕も植村さんや現地人をみならい、彼らの食べているものをたくさんいただくようにしている。そして、そんな料理に添えていつもだされるのがチャパティなのだ。水分が多いと凍ってしまうのだろうか、どちらかというとパサパサとした食感だが、不思議と他の料理を際立たせる。時々、欧米のトレッカーが自分たちで持ち込んだパスタを茹でたりしている光景を目にするが、高所だと気圧の関係で沸点が低いため、あまり美味しくならない。また、なにより貴重な水を茹でるだけで無駄にしてしまう。
世界のあちこちで食べられている小麦のその土地ならではの調理法には、きっと生きる知恵が盛り込まれているにちがいない。