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全国粉料理探訪
005兵庫・播州|強くなれと念じ、しなやかに延ばす
INDEX
PART1 播磨の小京都に、600年もの昔から
PART2 何年やっても、一生、稽古や
PART3 うまして、延ばして、縒りをかけ
PART4 思いと共に、進化し続ける揖保乃糸
PART1|播磨の小京都に、600年もの昔から
姫路から電車に揺られること約20分、JR姫新線・本竜野の駅に降り立った。12月初旬、からりと晴れ渡った青空とは対照的に、かなり寒い。この地が日本有数のそうめんの産地に育ったのは、この気候と、たつの市内を縦断する揖保川の恵みがあればこそ。いまもって豊かな自然に抱かれ、小高い山々の紅葉は錦とみまがう美しさを残していた。
たつの市の龍野エリアは、「播磨の小京都」と呼ばれる城下町。白壁の土蔵や武家屋敷が今も残り、ぶらりと散歩するだけでも気分が晴れやかになる。龍野城に向かう。城壁に囲まれた石段をのぼる時は勇往な心持ちになったが、視界が開けると「和」の世界。お城というよりは、庭園をかまえた巨大な邸宅で心和む。聚遠亭(しゅうえんてい)も同じく、和みのスポット。数寄屋風の建築で、松平定信が絶賛したという眺望に見とれながら腰掛けていると、いつしかまどろんでくるようだ。
ゆったりと時間の流れるこの土地で、600年もの昔から育まれてきたそうめんづくり。兵庫県手延素麺協同組合にご協力いただき、匠の技を追ってみた。
上)国民宿舎「赤とんぼ荘」からはたつの市街が一望できる 下左)城下町龍野のおもかげを残す街並み 下右)美しい庭園や池を擁す、数寄屋風建築の聚遠亭

上)  国民宿舎「赤とんぼ荘」からはたつの市街が一望できる
左下)城下町龍野のおもかげを残す街並み
右下)美しい庭園や池を擁す、数寄屋風建築の聚遠亭

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PART2|何年やっても、一生、稽古や
播州手延そうめん「揖保乃糸」がつくられるのは毎年10〜4月の寒冷の時期に限られる。全工程には二昼夜36時間が費やされるため、作業が始まるのは午前3時か4時ごろとなる。翌日午前中に麺を乾燥させることから逆算して、この時間には始めなくてはならない。凍てつくような寒さのなか、花畑製麺所では、花畑正信さんとその父、重之さんが作業を開始するところだった。その工程を追ってみよう。
まずは材料となる小麦粉と塩水を練り合わせる「捏前(こねまえ)」の作業。1台のミキサーでこねられる小麦粉の量は7袋(1袋=25kg)。この製麺所では1日に平均23袋(575kg)もの小麦粉がそうめんに姿を変える。
ミキサーが導入され便利になったとは言え、ここでものを言うのは職人の経験と勘である。その日の室温や外温、湿度はもちろん、水の温度までに気を配り、こまごまと手で触感を確かめては、塩水の配合やこねる時間を変えていく。
「寒かったら甘くする(塩の加減を少なくする)。ここで間違えたらなんにもならん。何年やっても、一生、稽古や。」
80歳を迎えてなお、夜明け前から現場を離れることのない重之さんの言葉に重みがこもる。
上)ミキサーに小麦粉を投入する花畑正信さん 下)ミキシングの最中、こまめに触感を確かめる花畑重之さん

上)ミキサーに小麦粉を投入する花畑正信さん
下)ミキシングの最中、こまめに触感を確かめる花畑重之さん

この太い麺帯が、わずか1ミリ強にまで延ばされていく

この太い麺帯が、わずか1ミリ強にまで延ばされていく

粉を練り合わせるのに約1時間、その後、麺圧機で約20分圧延し、厚さ5cm、幅10cmほどの板状に切り出していく「板切」の作業。この板を直径5〜6cmの棒状に成形しながら、採桶(さいとう)と呼ばれる桶に巻き込んでいく。この太い棒(麺帯)を、ひたすら延ばしに延ばすわけだが、それほど単純なものでもない。延ばす前にまず、「合わせ」を行う。
最初に、3本の麺帯を1本に合わせ、先ほどと同様の太い麺帯にする。またそれを、今度は4本を1本に合わせ、さらに2本を1本に合わせる。最終的にできあがった麺帯は、太さは同じだが、3×4×2で24本が1本に合わされていることになる。何度も合わせることにより、小麦粉のたんぱく質、グルテンが複雑にからみ合い、そして、そうめんは強いコシをもつ。
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PART3|うまして、延ばして、縒りをかけ
これから麺を細く、細く延ばしていく。まずは直径2〜3cmくらいに延ばすが、この時、麺の表面に食用植物油をぬる「油返し」の作業がある。麺の乾燥と麺どおしの付着を防ぐための知恵だ。ここでいったん、3時間ほどの「うまし」、つまり熟成期間を置く。一気に延ばしては麺が切れてしまう。熟成させては延ばし、また熟成させては延ばすのを幾度となく繰り返す。
寝かせた麺を、今度は直径1cmほどに延ばす(「細目」)。また1時間の「うまし」をとり、直径6mmほどに延ばす(「小均(こなし)」)。これらの作業を行う時、麺には「縒り(より)」をかけなければならない。「縒り」とは麺をねじることで、ねじって延ばすことでまたグルテンが交錯し、麺が強くなる。
そして4時間、3度目の長い「うまし」が待っている。

次は「掛巻(かけば)」の作業。20cm間隔ほどの2本の管(くだ)に、麺を8の字に掛けていく。むろん、この際にも麺に「縒り」をかけ、さらに引き延ばす。この作業が始まるのが大体午後3時くらい。半日前の巨大な固まりは、かなり細くまで延ばされた。麺が細くなるにつれ「採桶(さいとう)」の数はどんどん増えていき、広い製麺所内を埋め尽くす勢いだ。よって「掛巻」の作業は、近所の方の手を借りて、9台の掛巻機を総動員して行われる。言うまでもなく、この麺は生きている。こうでもしないと作業はとても追いつかない。
麺の乾燥と、麺と麺がくっつくのを防ぐために油をぬる

麺の乾燥と、麺と麺がくっつくのを防ぐために油をぬる

上)極細のそうめんに箸でさばくと、しなやかに延びる 下)完成した「揖保乃糸」。ラベルの色で等級が分かれている

上)極細のそうめんを箸でさばくと、しなやかに延びる
下)完成した「揖保乃糸」。ラベルの色で等級が分かれている

管に掛けられた麺は「室箱(おも)」と呼ばれる木箱に丁寧に収められ、1時間熟成される。そしてすっかり日が暮れたころ、「小引(こびき)」の作業に移る。まずは試し引き。2本の管を手と足にかけ、ぐいぐいぐいと、段階的に引っ張ってみる。翌日乾燥させるため、翌日の気象条件を勘案しつつ、約50cmまで延ばす。
「いける」と判断した花畑正信さん自身が、次々と機械にかけていく。機械の調整はその都度行う。
「数十年前より機械が導入され、便利になったとは言え、最終的には“人”です。相手は生き物やから、繊細に扱うてやらんとあかんのです。」
再び室箱に収められた麺は約12時間、ゆっくり、じっくりと熟される。

翌朝、陽光がまぶしいなか、いよいよ最終工程に入っていく。
まずは「小分け」。室箱から取り出した麺はゆっくりと熟成され、ほどよい柔らかさとなっている。50cmほどのこの麺を約1.4mまで延ばしたら、「はた」と呼ばれる道具にかける。さらに延ばして2mほどになった麺の直径は、もはや1mm強。長い箸を差し込んで麺をさばくと、麺がスーッとしなやかに延びる。5〜6cmもあったあの麺帯から24時間以上かかっている。よくぞここまで細く延びたものだと、静かな感動がわき起こる。
この「門干し(かどぼし)」という乾燥工程を終えると、長さ19cmに切断、50gずつ束がかけられ、製品検査ののち、組合の倉庫で最後の熟成期間を迎える。管理が行き届いた倉庫で1年以上熟成されたものは、味や歯ざわりがさらに深みを増しており、これを「古物(ひねもの)」と言う。
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PART4|思いと共に、進化し続ける揖保乃糸
兵庫県手延素麺協同組合の井上猛理事長

兵庫県手延素麺協同組合の井上猛理事長

次の日、兵庫県手延素麺協同組合の井上猛理事長にお話を伺うことができた。
「朝からの取材、大変だったでしょう。」と、ねぎらいの言葉をかけてくださった井上理事長ご自身も「揖保乃糸」の生産者だ。
「軟水系の良質な水。冬場は気温が低く、湿気が少ない瀬戸内気候なので、いい小麦がとれた。赤穂も近く、塩もいい。元々は、そうした理由から揖保川流域にそうめんづくりが根付いたのですが、ここまで伝承されてきたのは、そうめん自体が常に進化し続けてきたからだと思います。」
“昔ながらのおいしさ”ではなく、味わい、香り、コシ、喉ごしなど、全体的に品質が向上していると言うのだ。
まずは原料の質が向上したことがある。「揖保乃糸」には、組合が定めた高品質の専用粉のみが使用されるが、その小麦粉の種類や、麺の太さ、製造時期により、細かな等級が定められている。赤い帯の「上級」、黒い帯の「特級」という具合で、最高級品の「三神(さんしん)」になると、500軒を超える生産者のうち、わずか数軒にしか製造が許されていない。
数十年前より機械が導入されたことも、そうめんづくりに大きく貢献している。
「機械の導入は労力の手助けになっただけでなく、動力をうまく活用しながらも、そこに工夫を重ねていったことで、品質も向上したと思います。」
そして、「揖保乃糸」の特長と言えるのが徹底した品質管理。そもそも「揖保乃糸」は組合が定めた生産者家にしか製造が許されず、すべて組合責任で管理されている。組合には23名の検査指導員がいて、彼らはすべての製麺所をまわって品質をチェックするだけでなく、指導も行うプロフェッショナルなのである。
「確かに検査や指導も行いますが、組合として大切なことは“ものをつくる”という思いを伝え、継承していくことなんやないか思います。」

夏は冷やして、冬は煮麺(にゅうめん)が定番のそうめんだが、バリエーションはそれだけに止まらない。播州手延そうめんの歴史や製造工程が楽しく学べる「そうめんの里」館内にある飲食店「揖保乃糸 庵」では、定番のそうめんの他、さまざまな創作料理を提供している。
“揚げ麺”は、一度ゆでたそうめんを丸い型の中でかき混ぜながら揚げて、円筒形にする。その上に明太子としらすなどの具を乗せ、香り高いだしをはり、カリカリの麺をほぐしながらいただく。
“ホタテとバジルソースで和えた冷製そうめん”は新メニュー。パスタに近い味わいだが、「揖保乃糸」ならではのコシが生きていて、触感が楽しい。
“バチぞうすい”は、そうめんのバチ(そうめんを延ばす時、両端の棒に巻かれている部分で、特に粘りが強い)をごはんといっしょにぞうすいに仕立てたもの。地元の人たちに愛されている郷土食だ。
その他にも、“そうめん巻き寿司”、“酢洗いそうめん(酢の物)”など、さまざまな調理法に調和する手延そうめん。手間暇を惜しまない職人の仕事が生んだ、その喉ごしは、揖保川の清流さながらの清らかさに満ちていた。
上左)香りさわやかな“酢洗いそうめん” 上右)“ホタテとバジルソースで和えたそうめん” 下)定番の“にゅうめん”には、梅干しがよく合う

左上)香りさわやかな“酢洗いそうめん”
右上)“ホタテとバジルソースで和えたそうめん”
下)  定番の“にゅうめん”には、梅干しがよく合う

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SHOP DATA
揖保乃糸 庵
兵庫県たつの市神岡町奥村56番地(そうめんの里館内)
TEL: 0791-65-9000
毎週月曜日定休(祝日の場合は翌日)、年末・年始
揖保乃糸 庵
取材協力:兵庫県手延素麺協同組合
http://www.ibonoito.or.jp/
花畑製麺所