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全国粉料理探訪
006長崎|時を超えて伝える、技と心
INDEX
PART1 華やかな街に渡来した焼き菓子
PART2 職人のリズムが、文化を刻む
PART3 熟練の技と勘で作られる逸品
PART4 伝統は守るものではなく、育成するもの
PART1|華やかな街に渡来した焼き菓子
1571(元亀2)年、ポルトガル船の入港以来発展し、17世紀中期の鎖国時代には唯一の国際貿易港として繁栄した街、長崎。艶やかに装飾されてにぎわう新地中華街、豊かな光に照らされたグラバー園、石で造られた風情のある眼鏡橋……。路面電車が行きかう街を抜け、坂道を登ると、独特の文化に彩られた街並みと穏やかな港が眼下に広がる。この地には、いまなお外国との文化交流の名残が色濃く残されている。
そんな長崎の街を歩いていると、そこかしこからふんわりと甘い香りが漂ってくる。見渡すと、ひとつの通りに2軒、3軒とカステラ屋が軒を連ねているのに気づく。その光景は、どこか不思議に思えるほどだ。「さすがは長崎」――観光客なら誰しもが感嘆しそうな光景だが、地元の人にとってはこれが日常。この街は長年、カステラとともに歩んできたのだ。

上)  港が一望できるグラバー園からの風景
左下)長崎の港には、さまざまな船が寄航する
右下)国内最古の石造りアーチ橋。水面に映える姿から「眼鏡橋」の愛称で親しまれている

上)長崎にはオランダ坂と呼ばれる石畳の道がある
下)長崎新地中華街の東口にそびえる色鮮やかな中華門

カステラは、ビードロや金平糖などとともにポルトガル人がもたらしたとされる。発祥地であるスペインのカスティーリャ王国のポルトガル発音「カステラ」が、名前の由来だといわれている。その栄養価の高さから滋養食とも考えられ、長崎に留学した各藩の医学生によって、全国に広まっていった。以降、日本人の口に合うように甘く柔らかくアレンジされて日本独自のお菓子になり、今では“洋菓子”ではなく“和菓子”とみなされている。
軒を連ねてひしめくカステラ屋は、どの店もそれぞれの歴史を感じさせる佇まい。なかでも老舗の趣をより感じさせるのが、船大工町のカステラ本家「mサ屋」だ。創業寛永元年(1624年)、約400年もの歴史に育まれた手作りの古法を受け継ぎ、西洋文化と日本文化を共有させた本物の味わいを現在に伝えている。
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PART2|職人のリズムが、文化を刻む
mサ屋のカステラを初めて食した人は「ふっくらとして、しっとりとした」独特な口当たりと、濃厚で風味豊かな味わいに新鮮な驚きを覚えることだろう。創業以来長い歳月を重ね、伝えられてきた職人の「手わざ」。mサ屋のカステラ作りは、卵の手割りから泡立て、混合、撹拌、釜入れ、焼き上げまで、ひとりの職人が一貫して責任を持って行っている。時は変わっても手わざの古法を守り続ける職人たち。卵と砂糖、小麦粉、水あめだけで作られたシンプルながらも奥深い味わい。だからこそ、ごまかしは一切きかない。厳選した素材を使うのはもちろん、1つ1つの作業もこだわりの積み重ね。とくに、カステラの口当たりや風味は生地作りでほとんど決まるため、職人たちはこのときもっとも神経を使うのだという。
泡立ての方法には共立法(ともだてほう)と別立法(べつだてほう)があり、mサ屋のカステラは別立法で作られる。別立法は卵を黄身と白身に分け、まずは手わざで白身の泡立てを行い、その後黄身とザラメ糖を加えて撹拌する製法だ。
シャカシャカシャカシャカ……。撹拌するときに響く小気味よい音。これが職人たちのリズムだ。長崎県多良見町にある工場では、一日中この音が鳴り響いている。長年、身体に染み付いたリズムで、白身を充分に泡立てる。

左上)職人たちは焼き上がりまで、すべての行程を1人で手掛けている
右上)福砂屋の商標に用いられている蝙蝠は、中国で慶事やめでたいことの象徴
下)  心地よい音をたてながら、別立法でまずは卵の白身を丁寧に泡立てる

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PART3|熟練の技と勘で作られる逸品

上)卵の白身の後に、黄身、ザラメ糖、小麦粉を加えてさらに撹拌する
下)粉の状態を手のひらで感じ取り、混ぜ具合などを調整する

長崎のカステラの特長は、カステラの底に残るシャリッとしたザラメ糖の口当たり。mサ屋では材料を撹拌するときに、ザラメ糖の角をすり減らしながら生地になじませる。ザラメ糖をすべて溶かしきるのではなく、わずかに残して底のほうに沈殿させる。40年近くカステラ作りを続けてきた職人はザラメ糖を入れたあとに攪拌する際に響く音と腕に感じる感触で、混ぜ加減を調節するという。溶けたザラメ糖は味わいに深みを、角が磨り減って底に残るザラメ糖は食感に広がりをもたらす。
ザラメ糖を混ぜたあとは、小麦粉を入れる。職人たちは手のひらに感じる粉の質感で、その日の混ぜ加減などを調整するそうだ。「同じ材料を同じ分量だけ使っても、季節と気圧、湿度に大きく左右されるんです」と工場長は語る。
別立法で丁寧に作られた生地を、木枠に流し込み焼き上げる。焼くときは生地を水平にならす“ツヤ切り”と呼ばれる行程を何度か行い、全体に均等に熱が行き渡るようにする。これによって表面にツヤが生まれるという。
こうして焼き上がったカステラを一昼夜熟成させ、甘味と香りを凝縮させる。その後の入念な検査にパスしたものだけが市場に出回っているという。もちろん、職人が技と勘で仕上げているため、味や色、ふくらみには微妙な個性が現れる。しかしこれこそが、手わざによるカステラ作りなのだ。すべての責任を任されることで、職人たちの志も高まり、そして何よりもをカステラを作ることを楽しんでいる。

左)焼く時に“ツヤ切り”という作業を数回行い、熱を均等に行き渡らせる
右)紙を敷いた木枠に生地を流し込む

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PART4|伝統は守るものではなく、育成するもの

福砂屋の16代目社長・殿村育生さん

長崎の街に生まれ、幼い頃からカステラとともに育ったmサ屋の16代目社長・殿村育生さん。やわらかな物腰と穏やかな表情。しかし確固たる信念で、「mサ屋」という伝統ある看板を背負ってきた。「守ることだけが伝統ではないんです。伝統は育成していくものだと思います。」と殿村社長。
さらに、「工場の若い職人には、とにかく謙虚な姿勢で学んでもらいたいですね。中堅以上の職人には、若い職人に丁寧に教えるように伝えています。職人の世界では、よく“一から十まで見て盗め”と言われていますが、手作りを伝えるためには本物の味を作りあげる行程――つまり、手わざを丁寧に後継者に教えていく必要があるんです」と語ってくださった。

時を超えて守られるものがある。例えばそれは文化であり、伝統であり、情景である。しかし、それをただ保守的に構えているだけでは、後世に伝え続けることはできない。先代が培ってきた伝統を守りつつも、“変わるための一貫した意思”で日々進化してこそ、時を超えて文化を継承することができるのだろう。
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SHOP DATA
株式会社mサ屋 長崎本店
長崎県長崎市船大工町3-1
TEL: 095-821-2938
無休
http://www.castella.co.jp/
株式会社mサ屋