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全国粉料理探訪
004札幌ラーメン|どんぶり1杯にこめた思い
INDEX
PART1 広大な大地にやがて根づいていく、札幌ラーメン
PART2 野菜をいためる時間数十秒の差が、味を変える
PART3 きっかけは人と人との出会い、そして助け合いの精神
PART4 小学生が授業で教わる、札幌ラーメンは食文化
PART1|広大な大地にやがて根づいていく、札幌ラーメン
さすがは北海道。そう思いたくなる、この広さ。
札幌の観光ガイドをパラパラめくって、まずは羊ヶ丘展望台にクラーク像を見に行って、平成17年に全面オープンとなったモエレ沼公園をぶらついてみようと思い立っても、その距離およそ17キロ。そのそれぞれがまた広大で、一日で満喫しようにも時間が足りない。もっとも市街地を歩いてみるだけでも、大通公園、時計台、道庁旧本庁舎‥‥と、写真では見たことがある、あの景観にふと突き当たるから、時間が足りなくても大丈夫。夏の北海道はとびきりに爽やかで、木々の緑や色とりどりの花々が美しく、おすすめだ。
そして、食。ウニ、カニ、イクラ、ボタンエビ、ホタテ、サーモンなどの海産物は言うまでもない。ジャガイモやアスパラなどが、こんなにうまいかと思わせるのが北海道の奥深さ。道庁所在地、札幌には広大な道内の各地から選り抜きの食材が集まる。ジンギスカンやスープカレーなど、人気メニューの発信地としても有名な札幌だが、ご当地メニューの先駆けとなった札幌ラーメンは、せっかく札幌を訪れたのなら、やはり押さえておきたい。
今回の「全国粉料理探訪」では、どうして「札幌ラーメン」がこの地に根付いたのかを追ってみた。
上)世界的な彫刻家、イサム・ノグチが設計したモエレ沼公園 下)「赤レンガ」の呼び名で親しまれている北海道旧本庁舎
上)世界的な彫刻家、イサム・ノグチが設計したモエレ沼公園
下)「赤レンガ」の呼び名で親しまれている北海道旧本庁舎
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PART2|きっかけは人と人との出会い、そして助け合いの精神
武蔵の和島さん。麺に注ぐ情熱は並大抵ではない。中右は一番人気の「辛味噌ラーメン」、下は定番の「味噌ラーメン」
上左)武蔵の和島さん。麺に注ぐ情熱は並大抵ではない
上右)一番人気の「辛味噌ラーメン」
下)定番の「味噌ラーメン」
まずは、「現在進行形」の札幌ラーメンをいくつかご紹介しよう。
一日のうちに3回も暖簾が変わる、風変わりなラーメン店があると聞いた。その名は「札幌ラーメン武蔵」。お昼時と午後と夜、順に白、青、赤と、色が異なる暖簾に掛け替えられる。それぞれの暖簾でラーメンをつくる者がちがうのである。
「同じラーメンを同じようにつくっても、どうしても味が変わってくる。例えば野菜を炒める時間が数十秒ちがうだけで変わるものなんですよ。お客さまに誰がつくっているのかお知らせする意味で、暖簾を変えているんです」
そう説明してくれたご主人の和島實(みのる)さんは、ご自身が武蔵を開店するまでは製麺職人だったそうで、なるほど麺に対するこだわりは一筋縄ではいかない。なんと、製麺工場では武蔵専用の製麺機が稼働していると言うから驚きだ。
卓上に出す寸前にすりおろすショウガの香りが新鮮な「味噌ラーメン」は、風味のある麺とスープに一体感があり、麺だけすすっていても、自然とスープが減っていくほどによくからんでいる。一番の人気メニューという「辛味噌ラーメン」は、見た目のインパクトとは裏腹の上品な辛さで、つい次の一箸を口に運びたくなる逸品。和島さんは、もう一度食べたくなる味を研究したとおっしゃったが、どこに秘密があるのか、まさにそのような味としか言いようがなかった。
次に向かったのは、「麺武 はちまき屋」。わずか9席のカウンターで、市街地から少し離れているが、口コミ人気で遠方からも客足が途絶えない要チェックのお店だ。有名店で修行を積んだご主人、江良篤史(えらあつし)さんはまだお若いが、ラーメンの味へのあくなき探究心から、店のメニューもいたってシンプルな「ラーメン専門店」のスタイルを貫いている。
「みそラーメン」を注文すると、カウンター越しにニンニクの香ばしい匂いが漂ってきた。出されたラーメンのスープには、油が厚い層をつくっている。ところがこれが少しもくどくなく、むしろあっさりしているほど。あざやかな黄色をした噛み心地のいい麺ともよく響き合い、単なる味噌とは言い切れない、複雑な風味とコクが堪能できる。チャーシューとは別に入るこま切れ肉や、キクラゲ、自家製メンマなどの具材もスープによくマッチしていた。
札幌の味噌ラーメンはこんなものだろうと決めつけている方がこのラーメンを食したら、その概念は大きく変わるんじゃないかと思わせる「新しさ」をもつ札幌ラーメンではないだろうか。
上右)スープの香りをチェックする麺武 上左)複雑な旨みを併せもつ、はちまき屋の「みそラーメン」 下)雲あかりで人気なのは「特製味噌バターコーンラーメン」
右)スープの香りをチェックする麺武はちまき屋の江良さん
左)複雑な旨みを併せもつ、はちまき屋の「みそラーメン」
雪あかりで人気なのは「特製味噌バターコーンラーメン」
そして、札幌の玄関口、新千歳空港でも本格的な札幌ラーメンを味わうことができる。2005年の暮れに3階の「グルメワールド」にオープンした「雪あかり」。ここで人気が高いのは、やはり、味噌。藤田良一店長によれば、いろんな地域の人が集まる場所だけに、誰にでも好まれる味を目指したとか。豚と鶏ガラ、そこに日高産の根昆布の風味が加わり、仕上げに香油をたらしたスープは、札幌ラーメンにしてはかなりさっぱりしている。これぞ王道と言うべき「特製味噌バターコーンラーメン」には、道産のバターとコーンが麺を多い隠すようにたっぷりと乗っかっている。食べ進めるうちに溶け出していくバターがスープにコクを与え、次第に表情を変えていくのが美味しいし、楽しい。お好みで塩味としょう油味もチョイスできる。なぜかホッとする一杯を、旅のしめくくりにもうってつけではないだろうか。
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PART3|野菜をいためる時間数十秒の差が、味を変える
本場の札幌ラーメンを堪能した後は、そのルーツをたどってみよう。札幌ラーメン誕生の鍵を握る西山製麺(株)の西山隆司社長にお話を伺った。
「札幌ラーメンの特長と言えば、ちぢれた黄色い麺、その麺の強いアシコシ。スープはこってり、タレは味噌。それから、炒めた野菜がのっているということでしょうか。どうして、こんなユニークなスタイルになったか。それには北海道ならではの理由があるんです」
──話は昭和20年代にさかのぼる。20年頃、西山社長の叔父にあたる西山仙治さんが、札幌でラーメンの屋台(のちの「だるま軒」)を始めた。仙治さんは浅草でラーメン店に勤めていたことがあるため、麺づくりの確かなノウハウをもっていたが、それに加えて、当時はなかなか手に入らなかった、ラーメンの麺に欠かせない“かん水”の入手ルートをもっていたと言う。ただし、仙治さんのラーメンは東京風の、当時は「支那そば」と呼ばれたものだった。
一方、昭和22年頃、松田勘七さん(のちの「龍鳳」主人)は、「寒い札幌で少しでも体があたたまるスープを」と、豚骨を煮込んだスープを考え出した。燃料も乏しく、火力が弱かったため、ことこと煮込んだスープはゼラチンが溶け出して、こってりしていながらも澄んでいる、札幌ラーメン独特の清湯(チンタン)系スープの原型となった。
「そのとき、もし火力が強かったら九州風の白湯(パイタン)スープになっていたでしょうね。そうすると、その後の味噌との出会いはなかったかもしれませんね」
上)札幌ラーメンの歴史を熱く語る西山社長 下)当時のラーメン屋台を復刻。イベントなどで使用される
上)札幌ラーメンの歴史を熱く語る西山社長
下)当時のラーメン屋台を復刻。イベントなどで使用される
炒めた野菜などをのせるのは、札幌ラーメンの大きな特徴(武蔵)
松田さんからこってりスープを、西山仙治さんから調理の基本を受け継いでラーメンづくりを始めた第三の男がいた。この方、大宮守人(もりひと)さん(のちの「味の三平」主人)は昭和25年頃、ラーメンに炒めたモヤシをのせるアイデアを思いついた。
「大宮さんは、麺がゆであがるのをお客さんが待つ間、なにか楽しめることはないだろうかと頭をひねり、フライパンで野菜を炒めるパフォーマンスを思いついたそうです。いま目の前で、自分に出されるラーメンができあがるぞという期待感は、おいしいものをさらにおいしくしました。野菜入りのラーメンはボリュームアップし、栄養価も高まり、彩りもよくなりました。まったくすばらしいアイデアだったと思います」
このアイデアマン、大宮さんこそは、味噌ラーメン開発の立役者である。きっかけは昭和27年頃、常連さんから「豚汁の中にラーメンの麺を入れてくれ」と頼まれたこと。大宮さん自身も味噌好きだったから開発に着手はしたものの、なかなか納得のいく味にならない。当初数年間は裏メニューとして常連のみに出されていたと言う。
「アメリカ領事館にゲイダックさんという方がおられて、三平の常連でした。この方が、裏メニューの味噌ラーメンを食べて『これはいい、どんどん研究しなさい』とおっしゃったのが後押しになったと聞いています。研究の結果、味噌と動物性スープの接点はニンニクにあったことを突き止め、昭和31年頃、ようやくメニューに味噌ラーメンが登場することになったようです」
札幌で麺をつくらせれば西山仙治の右に出るものはいなかったが、その仙治さんは昭和28年頃、突然札幌を離れ、北見に旅立ってしまった。この後を継いだのが、24年に札幌にやってきた、仙治さんのいとこ、西山孝之さん(西山製麺(株)初代社長)だった。
仙治さんの技術を受け継いだ孝之さんは、大宮さんの味噌ラーメンに合う麺の開発に着手した。松田さんのこってりスープに合う麺も手がけていたが、味噌ラーメンとなるとこってり度はさらに増す。最初に試作した麺は、太い、まるでうどんのような麺だったと言う。しかし、この麺は食感が少し気になった。
そこで、麺を細くするために小麦粉のグルテンを強くしてコシを出したり、スープとよくからまるように麺をちぢれさせたり、さらには麺にも自己主張をもたせるべく、卵を加えて黄色くするなどの改良が加えられた。孝之さんは大宮さんとともに試行錯誤を重ね、ようやく味噌スープにもっともマッチする、これぞ札幌ラーメンと言えるような王道の麺が完成を見たのだった。
「明治時代に屯田兵による開拓が進んだ北海道には、助け合いの精神が今も残っているんじゃないかと思います。松田さんや、大宮さんは、食とは関係ないところからラーメンの屋台を始めましたが、ここに麺づくりで協力を惜しまなかったのが西山仙治。大宮さんにスープを教えたのは松田さんでしたし、大宮さんは後に、味噌スープの秘伝を聞かれれば惜しみなく与えました。札幌ラーメンが生まれたのにも、この精神が大いに影響していると、私は思いますね」
札幌ラーメン特有の「ウェーブ」がかかる西山製麺の麺
札幌ラーメン特有の「ウェーブ」がかかる西山製麺の麺
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PART4|小学生が授業で教わる、札幌ラーメンは食文化
上)西山製麺本社 下)本社内にラーメン店を再現した施設がある
上)西山製麺本社
下)本社内にラーメン店を再現した施設がある
それぞれがそれぞれに趣向を凝らす札幌のラーメン店。そのこだわりは、スープのみならず麺にも当然、注がれている。
西山製麺(株)でつくるラーメンの麺の種類は、なんと100種類を超えると言う。原料の配分、太さ、ちぢれ具合、こね具合、色などにより、スープとの相性はまるで変わってくる。それぞれのラーメン店の要望を聞き入れているうちに、自然と増えたのだそうだ。
「社内には、ラーメン店を再現した研究・開発施設があります。時にはここにお客さまに来ていただいて、ああでもない、こうでもないと、厨房で共に汗をかきながら一杯のラーメンを完成させるお手伝いをしています。うちの社員を集めて試食をすることもあります。味がうすいだの、味が濃いだのと好き勝手言っていますけどね(笑)」
笑顔を見せる西山社長だが、ラーメンは「食文化」だと言葉をつなぎ、顔を引き締める。
「スープ、タレ、麺の三位一体。それから具材、盛りつけなどがひとつのどんぶりの中で引き立てあって初めて、一杯のラーメンが完成します。麺やスープ、具材など、全部を一人でつくることはできませんし、その中にはいろんな人の、いろんな“思い”が込められているんですよね」
最後に工場を見学させていただいた。この工場では基本的に30年以上も変わらないスタイルで製麺が営まれている。工場の地下およそ200メートルから汲み上げられる良質な地下水で小麦粉などの原料を混ぜ、圧力をかけたり、熟成させることで麺はできあがる。完成した麺は熟成室で、各店にとって最適な状態までさらに熟成させる。熟成によって旨みが増すのも札幌ラーメンの特長だ。その熟成方法などは企業秘密だが、この工場では子どもたちの見学は大いに歓迎している。
「札幌では、小学校3年生でラーメンの授業もあるんですよ。副読本もあるし、味噌ラーメンの誕生も勉強します。授業が終わった後はラーメン新聞をつくるし、ラーメンテストもあります。札幌ではこうした地域学習がさかんに行われていて、その対象のひとつがラーメンなんです」
札幌市内のラーメン店の数は定かではないが、2,000軒ほどもあると言われる。札幌ラーメン黎明の昭和20年から60年ほどが経過し、札幌市民にとってラーメンは、切っても切れない密接な間柄に成熟した。麺やスープが共に進化し続けてきたからこその成熟であったことを、今回札幌を訪れて知ることができた。
札幌で使用されている副読教科書やテストでは、ラーメンが扱われる
札幌で使用されている副読本やテストでは、ラーメンが扱われる
(札幌市版社会テスト:©株式会社日本標準)
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SHOP DATA
武蔵
札幌市白石区北郷5条9丁目1-28
TEL: 011-871-6341
http://www.sapporo634.com/
定休日:月曜日、第2火曜日
武蔵
SHOP DATA
麺武 はちまき屋
札幌市北区太平4条3丁目3-3
TEL: 011-775-2813
定休日:月曜日(祝日は営業、翌日休)
麺武 はちまき屋
     
SHOP DATA
雪あかり
千歳市美美987番地22(新千歳空港ターミナルビル3F)
TEL: 0123-46-5688
無休
雪あかり
 
COMPANY DATA
西山製麺株式会社
札幌市白石区平和通16丁目南1-1
http://www.seimen.co.jp/
西山製麺株式会社