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だれがイーストを発見したか?という問いは、だれが酒を発見したか?と同じように、答えるのはむずかしい。
そして、猿酒をはじめて発見した東洋の男と同じように、自然発酵で膨れたパンをみつけた幸運な男が、エジプトにはいたらしい。なんでも怠け者の男がいて、パンを焼くのがいやになり、こねてあったパンを遠くへ投げ捨ててしまった。あとで拾いに行くと、なぜか膨らんでいる。焼いてみるとふっくらして香ばしいパンを得た─というのである。
「パンを食べる人」と呼ばれた古代エジプト人がパン製造に長じていたことは、旧約聖書にも語られているし、多くの壁画や炭化して出土したパンの実物からも立証されているが、初期は無発酵パンが普通だった。暑いエジプトのことである。こねておいたパン生地がたまたま放置され、空気中の雑菌が繁殖し、表面は腐ったように泡をふいてきたことだろう。細菌と野生酵母菌によって自然発酵したこのパン生地で焼いたパンは、多少はすっぱいが、硬くてボソボソした平べったい無発酵パンよりは、香ばしくておいしいものだったとは想像できる。怠け者の発見談もこうして理屈づければ、なるほどとうなずけるのである。
また、古代エジプトには、パン生地にブドウのしぼり汁を入れて、翌朝見てみると膨らんでいたという話が伝わっているし、古代ギリシャではヒエの粉に白ブドウ酒をとったあとのかすを混ぜ、小麦粉を加えてパン種をつくって保存していたともいう。これらの話は、人類最初のイーストが酒づくりの歴史と深い関連を持っていたことを想像させる。事実、イーストという言葉は「泡だつ」「煮えたつ」という意味のギリシャ語と同じ語源から生まれている。酒の (もと)が酵母の働きで発酵し、表面にブクブクと音をたてて泡が生じる。あの泡が古代英語gist(現代英語ではyeast)のもとなのである。
顕微鏡の発見にともなう化学の進歩のなかで、酒やパンの母親とでもいうべき酵母菌の正体は、次々と明らかにされてきた。1750年にはオランダでパンづくりにはビール酵母より酒精酵母のほうが優れていることが発見された。1792年にはイギリスのメーソンが初めてパン用のイーストをつくったといわれるし、1825年にドイツで手押しの圧搾機を使ってはじめてかゆ状の酵母をしぼり生イーストをつくったともいわれている。
第1次世界大戦中のドイツでイースト製造の研究が急速にすすみ、第2次大戦中のアメリカでとくにドライイーストの研究が異常な進歩を見せたのは、軍隊とパンとの因果関係を思わせて興味深い。
エジプト人が「神の贈り物」として発酵パンをつくりはじめてから約6000年。いまでは、生イースト、ドライイースト、それも粒状、顆粒状と、世界各国のメーカーがつくるパン用イーストの種類は何百種といわれている。
パン用イーストの学名はサッカロミセス・セレビシェ。葉緑素を持たない下等な隠花植物に属する単細胞菌である。自分の体から芽の形で分裂して増殖する。形は卵形または楕円形、円形。1g中に140億とも150億ともいう細胞が生きて、パンづくりを手伝う。 |
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