ピラミッド時代の副葬品として発見された<粉をひく女>の彫像が示すように、古代エジプトでは、小麦の製粉は女の仕事だった。薄い石の上にひざまずいた身分の低い女たちが、両手に持った石のローラーで小麦をひき砕き、すりつぶす。容易な労働ではなかったはずだ。
粉を練るのに足を使った。おけの中で小麦粉と水を混ぜてから、足でこねるのである。ワインづくりの際、若い女たちがブドウを足で踏んだのと似ている。ピラミッド建造にかり出された膨大な人数の男たちに配給するパンを焼くために、女たちは来る日も来る日もたくましい足で粉をこねたのだろうか。
英語でladyといえば、貴婦人、淑女などと訳すのが普通だが、もともとこれは「パンをこねる人」という意味の古代英語から生まれているというのは、なんとなく皮肉を感じさせる。
ついでながら、「主」とか「卿」とかいう意味のlordの原義は「パンの番人」。同じ古代英語で「パンを食べる人」といえば奴隷、召使いを指している。雇い人を含めて一家の者の食べる食糧を管理するのがロードだったわけだ。女は「私、つくる人」、男は「私、番をする人」だったのか。
─「一にこわいが姑殿、二には小麦の二番ひき」これはずっと東方、日本は茨城地方に伝わることわざ。「こわい」は骨が折れるの意。エジプトのレディーたちにとっても、日本の農家の嫁にとっても、小麦粉づくりはまことにこわい仕事であった。 |
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