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最後の刈り束
古代、農耕ほど神秘的な労働はなかった。播種(はしゅ)期に種をまき、収穫期に刈り取る。ありふれた営みのようだが、自然がヘソを曲げると凶作になり、神の恵みを授かれば豊饒(ほうじょう)を得た。人々はだから、大地を母なるものとしてあがめ、神をたたえるためのさまざまな儀礼をつくり出したのだった。

とりわけ播種と収穫期に、このドラマは最高潮に達する。農民たちは身を清め、心を洗い、畑に入った。そして最初の種子は精霊たちにささげられ、収穫の際の「お初穂」は、天使や“小麦のお母さん”のために、あらかじめ取り置かれた。ユダヤ教では、お初穂として司祭に麦束を届け、司祭は祭壇の前でこれを振り、神の恵みを祈った。

対して最後の刈り束には、2つの意味が含まれていた。スウェーデンでは、精霊のために最後の束を刈らずに残した。これには、次の年にも豊作であれかしという願いがこめられていた。スコットランドでは、最後の麦束を刈り取ると結婚できるという言い伝えがあり、結婚を望む者たちは先を争って刈った。また、最後の刈り束から得られる小麦は「花嫁」と呼ばれ、この束を手にした女性は妊娠できるとも信じられていた。

ここでは最後の刈り束には、翌年の豊作を約束するエネルギーが含まれていて、それが結婚、出産という人間社会の繁栄にもつながるもの、という考えが見られる。

いっぽう、ノルウェー人は最後の刈り束を「おじいさん、おばあさん」として、収穫の終わらない他家の畑に投げ入れた。この刈り束には、小麦を食べる精霊が潜んでいて、それを次の1年間養わなければならないと考えたからだった。最後の刈り束を「小麦の女王」と呼ぶ地方もあれば、「娼婦」として麦束に真っ赤な唇をつける地方もあった。

ドイツの農民たちは麦の穂が出るころ、麦畑から麦畑へと吹き抜けていく風を「小麦のお母さん(コルンムッター)」と呼んでいる。麦を受粉させ、成長をうながす精霊である。人々は最後の刈り束を集めてわら人形をつくり、スカートをはかせ、エプロンをつけ、頭をスカーフで包む。やがて来る新しい年にもまた豊作をもたらしてくれるように右腕を太くつくったコルンムッターは、大地母神として刈り取りの終わった畑に立てられるのだった。
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