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お菓子のこぼればなし
お楽しみウーブリー
「ええ、お楽しみはいらんかね」

時代は12世紀も終わりごろ、というから古い。パリやリヨンの街々の夜ふけ、どこからともなく聞こえてくるのは“お楽しみ売り”の少年の声。

「さあ、おやすみの方は目をさましょ、お楽しみ売りだよ。今晩ためすのはどちら…」この少年が売って歩く菓子の名前は、ウーブリー。パリのやんごとなき方々の食卓でデザートのフランス菓子が全盛を迎えるころより何百年も前のこの時代に、それも一般庶民が初めて口にした菓子が、これだった。

いまならアイスクリームのお添えものとして出てくるあのうっすらとこげ色のついた棒状の菓子だが、そもそもは、菓子職人の調理場の下働きの少年たちが小遣い稼ぎに残り物の材料で焼いて売りに出たのが始まり。“お楽しみ売り”と一躍評判になり、1270年代にはウーブリー商人のユニオンまでできた。以後18世紀半ばまで羽振りをきかせることになるが、その理由のひとつに、彼らが聖体パンを製造する権利をもったことがあげられている。実際、ウーブリーの語源を探ると聖体パンに行き着くという説もある。しかし、始まりはともかく、夜の楽しみ売りがいつまでも聖なるものでいられるかどうか。やがてウーブリーは夜盗やいかがわしい商売をする者の利用するところとなり、街から消えていくのだった。

ウーブリーの名の由来はギリシャのオボリオスに発するのではないか、という説もある。2枚の鉄板で挟んで焼いた小麦粉菓子で、酒神バッカスに舞楽とともに献じたそうだ。アリストファネスの喜劇のなかにも登場する。となると紀元前400年前後のことで、ますます話は古くなる。

ウーブリーの作り方は簡単だ。薄くバターを塗った天板に小麦粉、砂糖、卵、香料、牛乳を混ぜあわせた生地を落とし、こげ色がつくまで焼くだけ。焼きあがりは、リヨン風にとんがった角笛形にするか、パリ風に平たくするか、そこはお好み次第。
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