クレープというと、オレンジの香りとコニャックの青い炎に包まれたいきなデザート、クレープ・シュゼットなどがまずナンバーワンというところだろうが、料理人の手にかかって演出を凝らされる以前のもとの姿といえば、小麦粉とミルク、それにはちみつを加えて焼いただけの、フランス農家風手づくり薄焼きせんべいといったもの。そういった時代にはガレットと呼ばれ、そば粉を使ったりもしたものだったのがしだいに昇格(?)して、名も「絹のように」という意味のクレープとあいなった。
フランスでは2月2日、聖母お清め(シャンドルール)の日の夜に、善良な農家の人たちはクレープを焼いて、その年の運勢を占ったものだった。右手にはフライパンの柄を、左手にコインを持って、焼きあがったクレープを空中にほうり上げる。うまくもとのフライパンに戻れば吉、ことしの収穫もうまくいきそうだぞ、とハッピーな夜になる。
寒く凍てついた冬の間、休むよりなかった畑仕事がまもなく始まる。太陽が少し高くなり、日足も長くなってきた。小麦畑はすき起こして空気を入れ、種まきに備えなければならないし、ブドウの根も掘り起こしてやらなければ…春遠からじのそんな季節の節目が、このマリア様のお清めの祝日。ろうそくの火の下で“小麦粉せんべい”占いに1年の幸せを念じた気持ちもよくわかる。
ところで─あのナポレオンがクレープ占いの好きな人だった。1812 年2月2日をマルメゾンで迎えた皇帝は4枚のクレープをうまくフライパンに収めることができた。よせばよかったのに、5枚目に挑戦して失敗。4カ月後の6月、47万5000の大遠征軍を率いてニェーメン河を越えた彼は、10月、飢えと寒気のモスクワから悲惨な退却を開始するのだが、そのときつぶやいたという。
「予の5枚目のクレープだ!」 |
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