人間もそうだが、ビスケットにも硬軟さまざまある。
本来は、硬いものだった。ラテン語のbiscoctum panem (<ビスコクトウム・パネム>二度焼きしたパン)が、biscuit(ビスケット)の語源で、2度焼きして水分のないカリカリの状態にしたのがビスケットのそもそもだった。もちろんパン種は入れない。ガスを逃がすために針穴をあけた。なかにはごていねいに4
度焼きしたのもあったという。こうしてカリカリにしたのは日もちをよくして、長旅や航海に持っていくためだった。
フランス人は「ちゃんとした準備もせずにものごとを始める」ということをs'embarquer sana biscuit( <サンバルケ・サン・ビスキュイ>ビスケットなしで乗船する)というが、このビスケットはだから硬いほう。
イギリス陸軍の兵隊たちが「ビスケット」と呼ぶのは3枚1組の硬い布団のことで、これもカリカリタイプだ。日本でいうなら、せんべい布団か。
これが時代を経るにつれ、軟らかく、甘くなってきたのは他の食品類すべてに共通する現象で、今風のビスケットは砂糖、ミルク、バターもたっぷり入っているし、2度焼きなどしない。ガス抜きの穴も飾りのためだけのものになった。カリカリではなく、サクサクという感じ。とくにアメリカでビスケットといえば小型のパンの一種で、ふわっと軽くて、焼き立てのものにバターをつけて食べる。ビスケット本来の味はクッキーのほうに受け継がれたらしい。
1940年のパラマウント作品(日本公開1950年)で<僕の愛犬>というのがあった。南部の牧場で少年がポインター種の犬を飼っている。ヘマばかりしているこの犬を人は「ビスケット・イーター」だという。つまり、大飯食らい。食べるのだけは一人前で仕事はダメ。「ストップ!」の声で仲間の犬たちは止まっているのに。自分だけスタスタ歩いてから気がついてキマリが悪そうにしているといったふうなこの犬を、しかし、少年は最後まで信頼している。そしてラスト、犬は猟犬としてりっぱに期待にこたえてみせる…このビスケットはどうやらミルク入りのサクサクタイプだったろう。
主役(?)のポインターは、名犬タイバートン・インベイダー。映画の原題はズバリ<The Biscuit Eater>だった。 |
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