名物コナモン探訪 コナモンライブラリ

名物コナモン探訪

Vol.7

讃岐うどん

うどんといえば、やっぱり讃岐。
ではなぜ、香川のうどんは有名になったのか?
「おらが町の名物」を全国区の人気モンに押しあげた
造り手に出会いに、現地を訪ねました。

「うどんといえば讃岐」のワケ

日本人が誇るべきコナモン文化、うどん。おいしいご当地うどんは各地にありますが、なかでも有名なのは讃岐うどんではないでしょうか。

その発祥については諸説ありますが、確かな文献として当協会相談役・奥村彪生(あやお)さんの文献からひもとくと、元禄年間には確実にうどん屋さんがあったとのこと。『金毘羅祭礼図』には人々が木鉢で粉をこね、包丁でうどんを切っている様子も描かれています。

また香川県・金刀比羅宮周辺には、明治期に35軒のうどん屋さんがあったという記録も。現在700軒ものうどん屋があるいわれる“香川・うどん県”ですが、当時からそのにぎわいを見せていたようです。

街道の茶店の餅とうどん

  • 名物・アン雑煮うどん(510円)。だしにとけないよう硬めについた餅は、ほどよい食感。冬場限定の白味噌仕立ても人気

    名物の「アン雑煮うどん」は、お客さんからの要望で提供がはじまったそうで、硬めについた小豆あんの餅を焼いて、かけうどんにのせたもの。真昆布、いりこのきいたおだしをすすってから、お餅をかんでみると。ほのかに甘い小豆あんが、意外にもおだしに合います。あんの入った餅とうどんの相性に驚くばかりです。

    厨房に立って20年近くになる、4代目の宏明さん

  • そのうちの1軒、明治時代末期に餅店から始まった「本場かなくま餅 福田」さんにうかがえば、4代目社長の福田宏明さんがお話をしてくださいました。お店が立地するのは、財田川(さいたがわ)の橋のたもと。観音寺から高瀬、詫間(たくま)、多度津、丸亀を結ぶ街道と、四国霊場巡礼の休憩地点にあたり、昔から行商人やお遍路さんは川を見ながら、ここで一息ついたといいます。

    「鹿熊(かなくま)」の屋号をつけた茶店は創業時には数軒ありましたが、ここの2代目・貞子さんが軽食にうどんを出すようになったのが、いまの形態の始まりだとか。当時は製麺所から仕入れていましたが、50年前、3代目伸夫さんの代から店で手打ちを始めるようになりました。いまでは早朝から餅をつき、麺を打ち、おまけにご飯もの、おでんまで出されています。

    冷かけうどん(250円)。お皿の上には、海老おこわといなり寿司(いずれも2個で220円)

    いりこだしのきいたおでんは、
    豆腐(100円)が人気
    (おでんは全て100円)

    「本場かなくま餅 福田」
    住所:香川県観音寺市流岡町1436-2
    電話番号:0875-25-3421
    営業時間:10:00~14:00頃(玉切れ終了)
    定休日:月曜日

幸せの黄色い天ぷら

常連さんはサッと選んで、ササッと食べる。滞在時間は10分ほど

今度は、うどんを盛り立てる必須アイテム、天ぷらが特徴的な「はなや食堂」を訪ねてみました。

お昼前の来訪でしたが、地元の常連さんがひっきりなしにやってきて、うどんを注文。揚げたての天ぷらもセルフでもっていきます。店主・横田ヒサ子さんの手が追い付かないくらいの繁盛ぶり。名物のテナガダコの天ぷらは限定数のみ販売なので、急いで私も1匹確保します。

いりこだし香るおだしのうどんに天ぷら。最強のコンビが、500円くらいで味わえるなんて。「讃岐・うどん県がうらやましい!」。そう思わずにはいられない一杯です。

  • 天ぷらの衣が黄色なのは彩りのため。以前は、赤、緑もあったという

    • 絶品の肉うどん小(500円)は、だしにみりんを加えた、すき焼きの味わい。お麩も絶妙な食感のアクセントに
    • 建物は明治初期創業の雰囲気のまま。手打ちの時代、製麺所の麺を使った時代、そしてまた自家製麺へと、100年以上のあいだ、さまざまな変化が

    「はなや食堂」
    住所:香川県善通寺市金蔵寺町838-2
    電話番号:0877-62-4334
    営業時間:10:00頃~15:00頃
    定休日:月曜日

うどん県ならでは、カタパンの老舗

数種類のカタパンが店頭に並ぶ。一口サイズの石パン(180円/100g)は、手づくりならでは。不ぞろいのかたちが愛らしい

次は1896年(明治29年)11月3日創業の熊岡菓子店へ。ここではうどんではなく、カタパンがお目当てです。

初代・熊岡和市さんが製造した兵隊パンが第11師団の御用達に。3代目・司郎さん、4代目・和広さん、5代目・和哉さんと代々が一子相伝、家族だけ、カタパンをつくり続けています。

小麦粉と砂糖を手でこねて、レンガの電気窯で焼いて、乾かして、蜜がけする。丁寧な作業を重ねて、硬い硬い、まさに石のようなパンが出来上がります。歯が立たないときは、噛まずに口にいれておく。柔らかくなって、昔なつかしい素朴な味わいが広がります。粉のおいしさを凝縮させたカタパン。時代を超えて、いまもファンが絶えません。

  • 3代目の奥さま、看板娘の熊岡民子さん。民子さんの仕事ぶりは次代のお嫁さんたちへ、代々受け継がれている

  • 量り売りなのも、買う側にとっては嬉しい

  • うどん巡りの箸休めに。クセになる優しい甘さを体感

  • 小丸パン20円と、元兵隊さん用の角パン30円。噛んでいくと香ばしさが広がる

  • 「熊岡菓子店」
    住所:香川県善通寺市善通寺町3-4-11
    電話番号:0877-62-2644
    営業時間:8:00~16:00頃
    定休日:火曜日、第三水曜日

「うどんは箱買い」も当たり前

箱に並ぶ、このうどんの輝き。「このままもって帰りたい」。そんな衝動にも駆られる

雨が少ない瀬戸内気候のもと培われた、塩田や小麦栽培の歴史。それが歳月をかけて、香川県で「讃岐うどん」として花を開かせます。「生活うどん」という言葉が存在するように、地元では「三食うどん」はもちろんのこと、お祭りも法事も、いつもうどんとともに存在します。お正月や親戚が集まるときには、ゆで麺を玉の並んだ木箱単位で買って帰る、私にしたら、なんともうらやましい習慣でもあります。

今回訪れた「橋本製麺所」にも「橋本」と焼き印が押された箱が積んでありました。そこへ並べられた真っ白なうどんは、ご馳走の輝き。器と箸を持参すれば、その場で食べることもできます。醤油をかけていただけば、それだけで大満足の食感と味わいです。

  • 器と箸を持参すれば、その場で食べることも可能。お醤油も貸してくれる

    • 製麺機の前に大釜が。「60年のあいだ、ここで何玉のうどんがつくられてきたんだろう」。脳裏にもそんな感慨が
    • 「英子さんのうどんは、何玉でもいけます」。出会いを喜びました
  • 1958年(昭和33年)から60年、店主の橋本英子さんは製麺一筋。亡くなったご主人も農機具の修理、販売業のかたわら、農閑期には英子さんの製麺を手伝っていました。実は地元の人のあいだでは「橋本農機具店」という呼び名の方が、有名なのだとか。息子の慶蔵さんも小学校からお母さんの製麺を手伝っています。大きな釜と大きな製麺機も、半世紀以上、いい仕事をしてくれているのです。

    • 農機具の部品が並ぶ棚の前で味わう讃岐うどん。ゆでおきでも麺の食感がたまりません
    • 60年前は1玉5円くらいだったそう。ちなみに1玉70円にしたのは10年前。以来、値上げはしていない

    「橋本製麺所」
    住所:香川県高松市仏生山町甲1120 
    電話: 087-889-0812
    営業時間: 10:00~18:00 

「セルフ」の醍醐味を体感

  • 氷でしめたうどん。食感やおいしさに秀で、麺を味わう最良の方法なのではないか、と思えるほど

  • 自分でも「よく食べられるものだ」とあきれますが、とくにうどんは、何軒でも回れてしまうのが不思議。せっかく香川に来たのに、讃岐うどんの特徴「セルフ」を体感せずには帰れない、ともう一軒、足を運びます。ゆでたてを好きなかたちで簡単に味わえる「セルフ」。でも選ぶのに時間がかかっている人がいると、常連さんがイライラするのを背中に感じたりもします。

    ここ「ヨコクラうどん」の特徴は“スピードうどん”。入店して1分後には、客が食べ始められるくらいの迅速な対応なのです。江戸時代末期からこの地で水車精米や製麺所、雑貨屋さん、採石業などを経営、1949年(昭和24年)、「よろずやさん」が流行りだったこともあり、うどん屋さんを始めたのが、こちらのお店の始まりです。

うどんをしめる5代目の英城さん

アイデアマンだった3代目の栄雄(ひさお)さん直伝のうどんを武器に、4代目に嫁いだ政代さんが店を切り盛り。いまでは5代目・英城(ひでき)さんが受け継ぎ、お母さんを支えます。

政代さんの揚げたての天ぷらは、季節の野菜や高野豆腐が人気。選んで、麺を決め、カウンターの端に移動するときには、もうお鉢に麺がはいっています。セルフで麺を温め、おだしをかけ、薬味をのせる。常連さんなら、ここまでで1分です。

滞店時間5分で、この満足感。ここまで凝縮されたおいしい空間は、なかなかないと思います。

  • 大根おろしに徳島産のゆず果汁と特製だし醤油をかけた、
    政代さん考案のお値打ちの一品・しょうゆうどん(370円)

    • 風情あるのれんをくぐると、広々とした旧家の風格ある空間が広がっている

    • 天ぷら担当の政代さんの仕事は、とにかく手早い

    • 高野豆腐の天ぷらなど3種盛り(1皿120円)も人気

    「ヨコクラうどん」
    住所:香川県高松市鬼無町鬼無136-1
    電話番号:087-881-4471
    営業時間:8:00~16:00
    定休日:無休(1/1〜1/3は休業

文/熊谷真菜 撮影/福森クニヒロ 
※2018年6月取材

参考資料・奥村彪生『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協 2009年)・沖山欣也ブログ37【香川県の麺類などの歴史!】

http://papua.osakazine.net/e637710.html

日本コナモン協会会長 熊谷 真菜(くまがい まな)

日本コナモン協会会長 熊谷 真菜
(くまがい まな)

日本コナモン協会会長、
食文化研究家。
1961年西宮市生まれ。立命館大学学位論文で「たこやき」、同志社大学修士論文で「代用食」をテーマにし、1993年に初の研究書『たこやき』(講談社文庫)でデビュー。2003年5月7日コナモンの日に日本コナモン協会を設立。10周年を機に、コナモンという言葉定着の次なるテーマとして「だしツッコミ!」を掲げ、400年かけて培われた旨みの技、粉もんはだしが命であること、大阪の食文化の奥深さを日本や海外のコナモン交流会、たこ焼、お好み焼教室で2万人あまりにご紹介。
道頓堀たこ焼連合会、大阪鉄板会議主宰、全日本・食学会理事。
主著は『「粉もん」庶民の食文化』(朝日新聞社)。TV,ラジオ出演多数。 http://konamon.com/