47都道府県のコナモン
2019年5月1日の新元号制定にあたり、コナモン好きなら注目しておきたい町がありました。
その名も「平成駅」。
多数のお好み焼店が点在する、熊本市平成駅界隈の名物コナモン店を訪れてみました。
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- 「平成」最後に、熊本にコナモン詣で
- さまざまなコナモン文化が根付く熊本県平成駅の10キロ圏内には、50軒以上のお好み焼・たこ焼店があります。
熊本で「まぜ焼き」スタイルを始めた人気のお好み焼店「大文字」を訪ねました。
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- 「まぜ焼き」と「重ね焼き」が
共存する町 - 「大文字」では誰でもふんわり焼けるよう、容器や生地に工夫。
一方、広島焼きのような「重ね焼き」の「肥後のたこ坊」は、醤油マヨご飯などを挟んだ「ライス焼」がとろけるおいしさで人気です。
- 「まぜ焼き」と「重ね焼き」が
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- 熊本名物「ちょぼ焼き」
- 生地を30〜40センチのクレープ状にのばし、豚肉や野菜、たくあんなどの具や麺をのせて包む「はす多」の「ちょぼ焼き」。もっちりした麺や香ばしいタレが絶妙で、持ち帰りたくなるおいしさです。
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- 進化する「ちょぼ焼き」
- 戦後、駄菓子屋で食べられていた「ちょぼ焼き」。現在は、さらにおいしくするため店ごとに工夫を重ね、焼き方もスタイルもいろいろ。今後、観光資源として注目されそうなご当地グルメです。
平成最後に、熊本にコナモン詣で

熊本市平成駅中心の10キロ圏内には、50軒以上のお好み焼店、たこ焼店があると言われています。
熊本には、白湯(ぱいたん)スープにたっぷりの野菜を入れ、麺が春雨のご当地中華「太平燕(タイピーエン)」や熊本ラーメンがあり、麺好きな人が多いという印象も。
さらに「だご」(粉もん)文化もしっかり根付いています。「だご汁(小麦粉を練って作った平らな団子または麺状の具が入っている)」「焼きだご」など、食事はもちろんおやつにも、さまざまなコナモンが食べられてきました。
阿蘇山を源流とする白川、坪井川河口の熊本市近郊は、冷たいだし汁で食べる自家製麺の「しるかえ」や黒砂糖で食べる「冷やしだご」、小麦粉に大豆を入れた「豆だご」など、郷土料理にもさまざまなコナモンがある土地柄です。



まず熊本のお好み焼店といえば、一度は誰もが出かけたことがあるといわれる「大文字」さん。
創業約60年あまり、戦後京都でパン屋を営んでいた佐井宏光さんが熊本に移り住み、パン屋や洋食店、甘味店を開いた後、お好み焼店を始めたそう。お客さんが自分で焼く「まぜ焼き」スタイルのお好み焼は当時日本各地で流行っていたので、熊本でも話題になりました。
お孫さんにあたる現社長・宏次さんは「コナモンは腹持ちもいいし、何よりおいしい」という祖父の言葉を振り返ります。
「大文字」では、誰が焼いてもふっくらふんわりになるよう、まぜカップの形や生地の具合も調整されていて、さらに熊本で昔からあるお好み焼店らしく、あべ川餅や栗ぜんざいなど甘党メニューも充実しています。
広々とした店内には背もたれ付きの鉄板テーブルが並び、私が理想とするお好みワールドが、そこにはありました。
「まぜ焼き」と「重ね焼き」が共存する町

まぜ焼きの古いお店があるかと思えば、熊本には広島焼きスタイル、重ね焼きのお店もあります。
そのひとつ「肥後のたこ坊」さんに。「ライス焼」を注文します。生地を薄くひいた上にキャベツ、そこに“黄色の何か”が。何と「たくあん」だというのです。そのあともボウルでまぜた“茶色の物体”が投入され、今度は豚・いか・えび・天かすに生地がかけられて、ひっくり返されます。
最後はソースを塗って完成。店の2代目・宮城一路さんによると、茶色の物体はご飯にマヨネーズ、秘伝の醤油を入れてまぜたもの。これこそ“ライス焼”の肝の部分なのです。


食べてもご飯感は全くなく、まろやかな口どけ、とろけるおいしさでびっくり。醤油マヨという強力コンビが、ご飯粒とキャベツ、具材をつないでクリーミーな食感に。仕上げのソースで味がまとまるという、まさに調理の科学です。
まかないでマヨご飯とお好み焼を別々に食べていたのをお客さんが発見。「一緒に焼いて」と言われたのが由来なのだそうです。
熊本名物「ちょぼ焼き」

今回の熊本訪問で目にした「ちょぼ焼き」の看板。熊本流「ちょぼ焼き」の正体が気になります。
数年前、「くいしん坊万歳」の撮影で、実家の母と一緒に「ちょぼ焼き」を松岡修造さんにご紹介する機会がありました。そのちょぼ焼きは、はがき大の窪みが15個並んだ銅板に、水溶き小麦粉をちょぼちょぼと流し、5ミリ角のこんにゃく・たくあんなどを入れたコナモン。2段造りのカンテキ(七輪)を使って炭火で焼きます。
山口県下関市で生まれ育った祖母も幼い頃(大正時代)にこれを食べていたそう。また大阪でも、ちょぼ焼きの歴史はたこ焼よりも古いといわれています。
早速、「はす多」で「ちょぼ焼き」を注文すると、店主・橋本昌樹さんは大きな鉄板に生地を注いで、コテで直径30〜40センチぐらいのクレープ状にのばします。
けずり粉、5ミリ角のたくあん、炒めた豚と太中華麺を生地の中央にのせ、生のもやし、キャベツも追加。天かす、卵を加えたらひっくり返して重しをのせ、具材にしっかり火を通します。
最後は自家製のタレをかけ、生地を三つ折りにたたみ、上から醤油ベースのタレをぬって、5等分にして皿に盛りつけます。





生地で巻かれた焼きそばは、もっちりした食感。醤油とソースの風味も香ばしく、たくあん、天かすのアクセントも絶妙です。おみやげにしたいくらいのおいしさ。肉肉、麺麺、野菜、卵…と自分好みにカスタマイズできるんです。
橋本さんは高校生のとき、熊本「ちょぼ焼き」の発祥といわれる「福田流ちょぼ焼き」に通ううちに、その味にはまったそう。
橋本さんは、福田さんが店を閉じたあとも、その味を継承するお一人です。その話を聞いて、平成駅から車で数分にある「福田流のちょぼ焼き」の跡地も見に行ってみました。
進化する「ちょぼ焼き」


そのあとは、熊本地方卸売市場にある「ちょぼ焼き末広」さんへ。
こちらの社長、浅井伸治さんも幼いころから福田流に慣れ親しんだ方です。戦後、駄菓子屋で「ちょぼ焼き」を焼いてくれる店はたくさんあり、生地の上には天かす、たくあんが基本の具だったそうです。
浅井さんは水溶きをだし溶きにするなどして、昔はごわごわだった生地をもっちりと、また醤油にもソースを合わせるなど、現代のお客さんにもおいしいといわれる「ちょぼ焼き」となるよう工夫を重ねておられます。


末広さんの近くの「お好み焼 はやしだ」さんでは、「ニンニクちょぼ焼き」が人気。たくあんはフードプロセッサーで細かくし、豚150gも油抜きしたものをのせ、そこにニンニクのスライスをたっぷりと。じっくり焼きます。
「ちょぼ焼き」は店ごとに焼き方もスタイルもちがうので、観光資源として今後注目されるべき商品だといえるでしょう。
「令和」時代を迎えるにあたり、「平成」駅周辺のコナモン探検は、熊本のだご文化に支えられ愛される、ホンマにおいしい旅になりました。
文・撮影/熊谷真菜 ※2019年3月取材