47都道府県のコナモン
信州を代表する郷土料理、おやき。
そのおやきが少しずつ変化し、時代に合わせて進化しています。
季節の味わいを包んで仕上げるおやきの魅力に迫りました。
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- おやきといえばお盆?
- まずは善光寺近くの「南屋製菓店」さんへ。「お盆はおやきを食べる日なんですよ。」とのことで、夏野菜が旬の時季はナスおやき、もう一つは甘い系のつぶあんを。仏様が戻るという8月14日の朝に作られ、16日は仏様のおみやげ用に作られたといいます。
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- ベテランおやき女子の活躍
- 善光寺山門近くの「さんやそう」は、ベテランおやき女子が勢ぞろい。60歳で若手、社長も店長も70歳以上ですが、皆さん実年齢よりずっと若くみえます。たっぷりの野菜と自家製味噌、中力粉でできたおやきこそ若さの秘訣なのかもしれません。
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- 娘に伝える、水取りおやきの真髄
- おやきは手に粉をつける粉取りと、水をつける水取りに分かれます。信州おやき協議会会長の小出さんは、水取り派の家に嫁いだ母から作り方を習い、おやき名人の技を継承しています。いまはおやきは買うものになりましたが、おやき教室を通じて、おやきのおいしさと手作りの大切さも伝えています。
おやきといえばお盆?

私がおやきの元祖ともいえる灰焼きおやきに出会ったのは、20年以上昔。
囲炉裏が各家庭にあった時代の焼き方で、漬物や野菜を小麦粉の皮で包み、焙烙で焼き目をつけたら、灰のなかに入れてじっくり蒸し焼きにするおやきです。
ソフトボールみたいに大きく分厚い皮で、1個食べたら満腹になるような巨大なおやきでした。
囲炉裏が減ったいまでは、表面を焼いて蒸すタイプや、蒸すだけのタイプなどバリエーション豊かに。柔らかく小さくなって、いろんな味を楽しむことができ、おやきの里の一つ、鬼無里のおやき名人からは、「コナモンの協会があるなんてありがたいことです」と言っていただきました。

今回は、信州おやき協議会会長の小出陽子さんが案内してくださいます。
「おやきを食す日」を復活する運動や「信州おやき憲章」など、地元のおやき店主さんとおやきの食文化を後世に継承するさまざまな活動をされています。

まず最初のお店は善光寺の近くにある昭和10年創業の「南屋製菓店」さん。
15年前、おやきの里の七二会(なにあい)から嫁いだ3代目正昭さんの妻、田中正恵さんが、おやきの魅力をお話しくださいました。
「おやきといえば、お盆。お盆はおやきを食べる日なんですよ。」
夏野菜がたくさん収穫できる季節の主役は、ナスおやき。この土地特有の丸ナスの皮をむき、直径約6~7㎝、厚み1㎝のナス2枚の間に味噌をはさみ、小麦粉の生地をまとわせて蒸したもの。しっかりした丸ナスの肉質と味噌の絶妙な相性は、まさにおやきの王道です。


お盆のおやきの代表のもう一つは甘い系のつぶあん。
仏様が戻るという8月14日の朝に作られ、16日は仏様のおみやげ用に作られたといいます。
そのほか、切昆布入りの切干し大根、野沢菜、ニラミックスは、蒸しパンみたいにふっくら生地。
正恵さんおススメの切干し大根や、最近の人気はシソをきかせたズッキーニ。
ズッキーニの程よい食感にシソの香りがきいて、2個ぐらいペロッといけそうです。
初代は餅屋さんだったので、早朝から餅をつき、家族みんなでおやきを作り、6時半にはお店に商品が並び、遠方へのおみやげを買いにお客さんがやってきます。
お餅もおやきもご馳走だった時代から、地元の野菜と仕込み味噌で、大切に代々受け継がれている長野のお宝を味わうことができました。
「南屋製菓店」
住所:長野市三輪田町1346
電話番号:026-232-7218 FAX:026-232-7220
定休日:月曜日(祝祭日営業)



おやきエリアの西山地区へ
面積の広い長野県は、家計調査でも小麦粉消費が常に上位で、平地が少ないエリアでは水田より畑作がさかんなため、よい野菜に恵まれています。
西山地区といわれるエリアも畑作中心で昔からおやき名人がいて、小川村へ行く途中にもおやき工房や道の駅で必ずおやきが販売されています。
どのおやきも見た目や皮のタイプ、味付けがちがっているので、地元の人には必ず馴染みのおやき店があるようです。
その一軒、17年目になるという味彩さんにおじゃましました。定番の野沢菜、切干し大根、ナスのほかに、玉ねぎ、いんげんもあります。こちらは膨らし粉をつかった生地に焼き目をつける焼きふかしおやき。
ずっしりと重い大きいおやきは、まるで小麦粉に包んだおかずをいただいてるような、郷土の味わいでした。
「道の駅おがわ 味彩」
住所:上水内郡緒川村大字高府1502-2
電話番号:026-269-3262
営業時間:9:30~19:30
定休日:火曜日
ベテランおやき女子の活躍
おやきはどの家庭でも手作りされ、半世紀前はおやき専門店はありませんでした。
昭和30年代あたりから忙しい家庭では、おやきの中身と小麦粉を和菓子屋さんに持ち込んで、手間賃を払っておやきを作ってもらうようになり、おやきを店で販売する時代が始まりました。


善光寺の山門の近くにある「さんやそう」は創業18年目。お詣りする地元の人でにぎわいます。
お店でおやきを作るスタッフの年齢は、60歳では若手、社長も店長も70歳以上ですが、若々しく、ベテランおやき女子が勢ぞろいです。

「門前農館さんやそう」
住所:長野市長野大門町518
電話番号:026-235-0330
営業時間:10:00~17:30
定休日:無休(12/31のみ)
「おやきはただ丸めるだけじゃないんです。中の具材を何種類も朝から仕込んで、生地を巻いて焼き目をつけて蒸かす。泥つきの野菜を洗って下処理して、味付けするのは骨の折れる仕事ですよ。毎朝6時半から総出で作っていますが、鍋も重いし、種類ごとにつくり方も微妙に変わりますし、高齢化なんて言っていられないくらい、みんな働き者です。」
76歳という白谷典子さんが、年配の皆さんでお店を切り盛りするご苦労を話してくださいました。
どのお店にも言えることなのですが、皆さん実年齢よりずっと若くみえるので、おやきこそ若さの秘訣なのかもしれません。たっぷりの野菜と自家製味噌、これらを包む適量の中力粉は、長寿長野県を背負うバランス栄養食です。



娘に伝える、水取りおやきの真髄

おやきは店ごとに何もかもちがうので、おやきの表情も変わります。
信州おやき協議会会長の小出さんは、母、富貴子さんが1985年に始めた店を15年前に「ふきっ子のお八起」として引き継ぎました。
おやきは生地に具をまくときに、手に粉をつける粉取りと、水をつける水取りに分かれます。
水取りは加水も高く生地がゆるいので薄皮になるのが特徴。
嫁ぐまでは粉取りで作ってきた富貴子さんですが、水取りおやきを毎日何個も食べる清一さんに嫁ぎ、作り方を兄嫁に習って、第一回郷土食コンテストおやきの部で優勝するおやき名人になっていきました。



ピーマンに穴をあけて、味噌をつめておやきにした「丸ごとPマン」など、富貴子さんの創作が今でも受け継がれています。
いまは、おやきは買うものになりましたが、小出さんはおやき教室を通じて、おやきのおいしさと手作りの大切さも伝えています。
いまこそ、おやきの知恵に感謝したいものです。
「ふきっ子のお八起」
住所:長野市青木島1丁目
電話番号:026-217-2268
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜、日曜(祝日は営業)
参考文献
『聞き書 長野の食事』農山漁村文化協会 1986年
『千曲川のスケッチ』島崎藤村 新潮社 1955年
文・写真 日本コナモン協会会長 熊谷真菜