コナモンライブラリ
なぜ、香川のうどんは有名になったのか?
「おらが町の名物」を全国区の人気モンに押しあげた造り手に会いに行きました。
-
- 「うどんといえば讃岐」のワケ
- 発祥については諸説ありますが、元禄年間にはすでにうどん屋さんがあり、香川県・金刀比羅宮周辺には、明治期には35軒あったという記録も。現在は700軒ものうどん屋さんがあります。
-
- 始まりは、旅人が行き交う街道の茶店から
- 「本場かなくま餅 福田」さんは、街道と四国霊場巡礼の休憩地点にあり、昔から行商人やお遍路さんはここで一息ついたそう。軽食にうどんを出すようになったのが、いまの形態の始まりとか。
-
- 幸せの黄色い天ぷら
- うどんを盛り立てる天ぷらも重要なアイテム。「はなや食堂」は、いりこだし香るおだしのうどんと天ぷらが、地元の常連さんに大人気です。天ぷらの衣が黄色いのは、彩りのためとのこと。
-
- 粉のおいしさを凝縮させた、カタパンの老舗
- 小麦粉と砂糖を手でこね、窯で焼き、乾かして蜜がけし、粉のおいしさを凝縮させたカタパン。口にいれておくと柔らかくなり、素朴な味わい。時代を超えて、いまもファンが絶えません。
-
- 「うどんは箱買い」も当たり前
- 「生活うどん」という言葉があるように、地元では「三食うどん」はもちろん、お祭りも法事も、うどんとともに存在。お正月など親戚が集まるときには、ゆで麺を木箱単位で買うそうです。
-
- 「セルフ」の醍醐味を体感
- 「ヨコクラうどん」の特徴は“スピードうどん”。入店1分後には、揚げたての天ぷらとともに食べ始められるくらい迅速な対応。おいしさが凝縮された空間です。
「うどんといえば讃岐」のワケ

日本人が誇るコナモン文化、うどん。おいしいご当地うどんは各地にありますが、なかでも有名なのは讃岐うどんではないでしょうか。
発祥については諸説ありますが、確かな文献として当協会相談役・奥村彪生(あやお)さんの文献をひもとくと、元禄年間にはすでにうどん屋さんがあり、『金毘羅祭礼図』には木鉢で粉をこね、包丁でうどんを切っている様子も描かれています。
また香川県・金刀比羅宮周辺には、明治期に35軒のうどん屋さんがあったという記録も。現在700軒ものうどん屋があるいわれる“香川・うどん県”ですが、当時からそのにぎわいを見せていたようです。
始まりは、旅人が行き交う街道の茶店から

明治時代末期に餅店から始まった「本場かなくま餅 福田」さん。4代目社長の福田宏明さんからお話を伺いました。お店があるのは、財田川(さいたがわ)の橋のたもと。観音寺から高瀬、詫間(たくま)、多度津、丸亀を結ぶ街道と四国霊場巡礼の休憩地点にあたり、昔から行商人やお遍路さんは川を見ながら、ここで一息ついたといいます。
「鹿熊(かなくま)」の屋号をつけた茶店は創業時には数軒あり、2代目・貞子さんが軽食にうどんを出すようになったのが、いまの形態の始まりだとか。当時は製麺所から仕入れていましたが、約50年前、3代目伸夫さんの代から店で手打ちを始めました。いまでは早朝から餅をつき、麺を打ち、おまけにご飯もの、おでんまで出されています。
名物の「アン雑煮うどん」は、お客さんの声がきっかけでできたメニュー。硬めについた小豆あんの餅を焼き、かけうどんにのせたもの。真昆布、いりこだしをすすり、お餅をほおばると、ほのかに甘い小豆あんとおだしが意外にも相性抜群です。


お皿の上には、海老おこわといなり寿司(いずれも2個で220円)

「本場かなくま餅 福田」
住所:香川県観音寺市流岡町1436-2
電話番号:0875-25-3421
営業時間:10:00~14:00頃(玉切れ終了)
定休日:月曜日
幸せの黄色い天ぷら

滞在時間は10分ほど
今度は、うどんを盛り立てる必須アイテム、天ぷらが特徴的な「はなや食堂」を訪ねてみました。お昼前にも関わらず、地元の常連さんがひっきりなしにやってきてうどんを注文。揚げたての天ぷらもセルフでもっていきます。店主・横田ヒサ子さんの手が追い付かないほどの繁盛ぶり。名物のテナガダコの天ぷらは数量限定なので、急いで私も1匹確保します。
いりこだし香るおだしのうどんに天ぷら。最強のコンビが、500円くらいで味わえるなんて「讃岐・うどん県がうらやましい!」。そう思わずにはいられない一杯です。



「はなや食堂」
住所:香川県善通寺市金蔵寺町838-2
電話番号:0877-62-4334
営業時間:10:00頃~15:00頃
定休日:月曜日
粉のおいしさを凝縮させた、カタパンの老舗

今度は明治29年創業の熊岡菓子店へ。ここではうどんではなく「カタパン」がお目当てです。初代・熊岡和市さんが製造した兵隊パンが第11師団の御用達に。代々家族だけがカタパンをつくり続けています。
小麦粉と砂糖を手でこね、窯で焼き、乾かして蜜がけ。丁寧な作業を重ね、硬い硬い、まさに石のようなパンが出来上がります。歯が立たないときは噛まずに口にいれておくと柔らかくなり、昔なつかしい素朴な味わいが広がります。粉のおいしさを凝縮させたカタパン。時代を超えて、いまもファンが絶えません。




「熊岡菓子店」
住所:香川県善通寺市善通寺町3-4-11
電話番号:0877-62-2644
営業時間:8:00~16:00頃
定休日:火曜日、第三水曜日
「うどんは箱買い」も当たり前

雨が少ない瀬戸内気候のもと培われた、塩田や小麦栽培の歴史。それが歳月をかけて、香川県で「讃岐うどん」として花開きます。「生活うどん」という言葉があるように、地元では「三食うどん」はもちろん、お祭りも法事も、いつもうどんとともにありました。お正月など親戚が集まるときには、ゆで麺を木箱単位で買って帰る、なんともうらやましい習慣です。
今回訪れた「橋本製麺所」にも「橋本」と焼き印が押された箱が積んでありました。そこへ並べられた真っ白なうどんは、ご馳走の輝き。器と箸を持参すれば、その場で食べることもできます。醤油をかけていただけば、それだけで大満足の食感と味わいです。



昭和33年から60年、店主の橋本英子さんは製麺一筋。亡くなったご主人も農機具の修理、販売業のかたわら、農閑期には英子さんの製麺を手伝っていました。実は地元の人のあいだでは「橋本農機具店」という呼び名の方が有名なのだそう。息子の慶蔵さんも小学校からお母さんの製麺をお手伝い。大きな釜と大きな製麺機も、半世紀以上、いい仕事をしてくれているのです。


「橋本製麺所」
住所:香川県高松市仏生山町甲1120
電話:087-889-0812
営業時間:10:00~18:00
「セルフ」の醍醐味を体感

自分でも「よく食べられるものだ」とあきれますが、とくにうどんは、何軒でも回れてしまうのが不思議。せっかく香川に来たのに、讃岐うどんの特徴「セルフ」を体感せずには帰れない、ともう一軒。ゆでたてを好きなかたちで簡単に味わえます。
ここ「ヨコクラうどん」の特徴は“スピードうどん”。入店1分後には、食べ始められるくらいの迅速な対応です。江戸時代末期からこの地で水車精米や製麺所、雑貨屋さん、採石業などを経営、昭和24年「よろずやさん」が流行りだったこともあり、うどん屋さんを始めたのがこちらのお店の始まりです。

アイデアマンだった3代目の栄雄(ひさお)さん直伝のうどんを武器に、4代目に嫁いだ政代さんが店を切り盛り。5代目・英城(ひでき)さんが受け継ぎ、お母さんを支えます。
政代さんの揚げたての天ぷらは、季節の野菜や高野豆腐が人気。選んで、麺を決め、カウンターの端に移動するときには、もうお鉢に麺がはいっています。セルフで麺を温め、おだしをかけ、薬味をのせる。常連さんなら、ここまでで1分です。滞店時間5分で、この満足感。ここまで凝縮されたおいしい空間は、なかなかないと思います。




「ヨコクラうどん」
住所:香川県高松市鬼無町鬼無136-1
電話番号:087-881-4471
営業時間:8:00~16:00
定休日:無休(1/1〜1/3は休業)
文/熊谷真菜 撮影/福森クニヒロ
※2018年6月取材
参考資料・奥村彪生『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協 2009年)・沖山欣也ブログ37【香川県の麺類などの歴史!】
http://papua.osakazine.net/e637710.html
一般社団法人 日本コナモン協会会長熊谷 真菜(くまがい まな)
一般社団法人 日本コナモン協会会長、食文化研究家。
1961年西宮市生まれ。立命館大学学位論文で「たこやき」、同志社大学修士論文で「代用食」をテーマにし、1993年に初の研究書『たこやき』(講談社文庫)でデビュー。2003年5月7日コナモンの日に日本コナモン協会を設立。10周年を機に、コナモンという言葉定着の次なるテーマとして「だしツッコミ!」を掲げ、400年かけて培われた旨みの技、粉もんはだしが命であること、大阪の食文化の奥深さを日本や海外のコナモン交流会、たこ焼、お好み焼教室で2万人あまりにご紹介。
道頓堀たこ焼連合会、大阪鉄板会議主宰、全日本・食学会理事。
主著は『「粉もん」庶民の食文化』(朝日新聞社)。TV,ラジオ出演多数。
http://konamon.com/