パン生地のミキシングプロセスにおける
パン生地内部におけるパン酵母の動的分散評価手法技術を開発

株式会社日清製粉グループ本社の基礎研究所(所長 遠藤 繁)は、このたび、京都大学及び独立行政法人食品総合研究所の協力を得て、パン酵母の動きを可視化する新技術「蛍光バイオイメージング技術」の開発に成功しました。

「蛍光バイオイメージング技術」は、細胞表層工学技術(*1)と迅速イメージングシステム(*2)により、ミキシングプロセス中のパン酵母の動的挙動を把握するものです。今回の実験に使用したEGFP酵母(*3)とは、パン酵母の細胞表層に位置するα-アグルチニン(*4)と異種タンパク質GFP(緑色蛍光タンパク質)を、遺伝子工学的に融合させ創り出したもので、パン酵母の表層から強い蛍光を発することが可能です。

◆開発の背景

パンの品質は、パンを捏ねる「ミキシングプロセス」、生地を膨らます「発酵プロセス」、生地を分割・成型する「分割・成型プロセス」、そして焼き上げる「焼成プロセス」によって決まります。中でも、「ミキシングプロセス」は、パンの風味とテクスチャー(食感)に影響を及ぼすことから、パンの品質を左右する重要なプロセスの一つです。

この「ミキシングプロセス」には5段階のステージがあり、フランスパン、食パン、ハンバーガー用バンズなどパンの種類によりそれぞれ最適のミキシングステージが異なります。例えば、食パンにおける生地の最適状態はファイナルステージと呼ばれていて、生地の外観は、広げると、薄く、滑らかに延び、乾いています。このファイナルステージは、ミキサーのタイプによってはわずか数十秒間しかなく、製パン技術者はこの段階を五感を用いて的確につかみとり、より良い製品を作りだします。また「ミキシングプロセス」における優れた生地の成立条件として、小麦粉、水、食塩、パン酵母などの諸材料が均一に混ざっていることが必要で、特に発酵の要であるパン酵母の分散性は、パン生地の中での炭酸ガスの生成や複雑な代謝産物の生成といった観点からも極めて重要です。このように、パンづくりのポイントは製パン技術者の長年の経験と勘によって判断しています。当社では、このような製パン技術者の匠の技を明らかにし、より美味しいパン作りに生かしていければと考え、今回はパン生地中に多数広がっているパン酵母を夜空に光る星のように見立て、その光によってパン酵母の動きを可視化する手法を開発した次第です。

<参考資料>

可視化の仕組み
(1) 細胞表層工学技術(Cell Surface Engineering)による 
EGFP表層提示パン酵母(バイオマーカー)の選定
(2) 培養 バイオマーカーの培養
(3) 配合 パン原材料へのバイオマーカーの添加
(4) ミキシングプロセス 原材料とバイオマーカーの混捏
(5) 急速凍結 パン生地の組織構造の迅速固定
(6) クライオスタット 冷凍庫内薄片化処理
(7) 蛍光顕微鏡観察 パン生地のバイオマーカーの撮像
(8) 2次元デジタル画像の取得 
冷却型CCDカメラによる2次元デジタル画像の取得

<用語の説明>

*1 細胞表層工学技術
パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)の細胞壁タンパク質であるα-アグルチニンと、外来の異種タンパク質(酵素、機能性蛋白質、蛍光蛋白質)を遺伝子工学的に融合させることにより、新たなる機能を持つ酵母を創製する技術。この技術により、細胞表層へ輸送局在化されるタンパク質の分子情報を活用して、外来タンパク質分子を表層ディスプレイするだけではなく、細胞内の代謝系を乱すことなく、従来の細胞に新機能を付与することが可能である。

*2 迅速イメージングシステム
小麦粉にパン酵母の代わりにバイオマーカー(蛍光パン酵母)を配合し、ミキシングステージにおけるパン生地をパンミキサーからサンプリングする。このパン生地をコンパウンドと共に急速凍結した後、クライオスタット冷凍庫内で薄片化し、冷却型CCDカメラを撮像部を持つ蛍光顕微鏡によりデジタル画像を取得する。

*3 EGFP(緑色蛍光タンパク質変異体)
GFPは発光オワンクラゲ(Aequorea victoria )の緑色蛍光タンパク質である。EGFPはGFPの変異体であり一部のアミノ酸配列を改変してある。これによって従来のGFPより数十倍から数百倍の明るい蛍光を得ることが出来る。

*4 α-アグルチニン
α-アグルチニン(性的凝集物質)⇒細胞表層タンパク質の中の一つで、酵母細胞表層に局在化している。