成長市場であるインドのパン市場に
強みである“高品質な生イースト”で新規参入

近年の経済発展に伴って、パン市場が大きく伸長しているインド。
オリエンタル酵母工業のインド子会社「Oriental Yeast India(OY India)」では、
2022年8月に現地イースト工場を本格稼働させ、
事業基盤強化とシェア拡大を加速させている。
OY Indiaの取締役社長の吉田さん、副社長のSriさん、田中さんに
インド市場における強みや今後の展望などについて聞いた。

PROFILE

Oriental Yeast India Pvt. Ltd.

社長

吉田 巌 (中央)

1981年入社し食品研究所に配属。その後、東京工場でイースト製造・品質管理の業務に携わるうちにイーストの気難しさを学ぶ。2013年インドイースト事業プロジェクトに従事し、2018年から現職。

副社長

Srinivas S. Garapati (左)

2018年入社。インドで機械工学を専攻後、米国で生産工学の修士号・MBAを取得。イースト及び製パン原料会社を経て、南アジアを管轄する会社の社長を務める。2018年にOYIに入社し、現職。

イーストユニット部長

田中 輝久 (右)

2020年キャリア入社。前職では品質管理業務や米国子会社での経営改革を行う。日清製粉グループ本社の企画本部国際部門に配属後、オリエンタル酵母工業への出向を経て2021年より現職。

有望なインド市場に参入するべく
2022年8月に新工場の稼働を開始

インタビュー画像オープニングセレモニーの様子

2023年に人口世界一の国となり、2060年代まで人口増加が続くと予測されているインドでは、近年の女性の社会進出によって調理時間の短縮が求められ、パンやファストフードの需要が急速に伸びている。また、インドの平均年齢は28~29歳であり、若い世代を中心にパン需要がさらに伸びていくと推測されている。さらに、パン用イーストの原料となる糖蜜の生産量も豊富であり、原料調達の点でもイースト製造に適した立地となっている。

こうした状況を踏まえて、オリエンタル酵母工業のインド子会社「Oriental Yeast India Pvt. Ltd.」(以下、OY India)は、有望なインド市場においてイースト事業を開始するため、新工場を建設し、2022年8月に本格稼働を開始。現在、インドを地域別に東西南北4つの地域に分け、各地域に販売責任者、テクニカルセールス、営業スタッフを配置して、販売拡大を進めている。

「従来、インド国内ではイースト市場の8割を占める生イーストを4つの競合会社が製造していましたが、需要に対して供給が追いついていないことに加えて、質にも課題がありました。そのため、我々が高品質な生イーストをインド国内で安定供給できれば、必ずシェアが拡大できると考えていました」(吉田社長)

日本で培った技術・ノウハウを活かしてインドで求められる高品質・安定供給を実現

OY Indiaでは、日本で長年にわたり培ってきた製造・品質管理ノウハウを最大限活用することによって、現地市場に高品質の製品を供給することを目指している。

「インドは、食パンも比較的に糖分が高く、南部では甘い菓子パンも多く販売されています。オリエンタル酵母工業には、菓子パン向けの発酵力の高いイーストの開発に注力してきた歴史があるので、その歴史はインドでの競争力につながると考えていました」(Sri副社長)

また、インドにおいて競合他社の工場は1980~90年代に建設されたものがほとんどだが、OY Indiaの新工場は日本メーカーならではの最先端の衛生管理システムを整備している。さらに品質が高く、安全・安心な生イーストを安定供給できる点もOY Indiaの強みである。

「インドのパン業界では“日本品質”への信頼が非常に高く、営業活動では日本企業であることが最後の一押しになるケースもあります」(田中さん)

加えて、新工場ではインド政府が進める排水規制の強化に対応するため、工場の敷地外に排水しない「ゼロ排水(ZLD:Zero Liquid Discharge)システム」を導入。排水を濃縮して自家発電時に焼却するほか、蒸留水を浄化処理後に工場内で再利用することで、水資源を有効活用している。そのほか、発電時に発生する蒸気を生産工程で再利用するコージェネレーションシステムも取り入れるなど、環境に配慮した設備を採用している。

一方、インドへの新規参入にあたっては、現地の環境に合わせて改良すべき点もあった。

「生イーストの賞味期限は約1カ月で、日本国内であれば工場から2~3日でお客様のもとに届けることができます。しかし、インドは国土が広く、我々の工場は中央部の1カ所のみ。物流網も日本ほどは発達していないので、お客さまのもとに届けるまでに1週間から長ければ2週間かかることもあるのです。そこでオリエンタル酵母工業の研究所に賞味期限が長い生イーストの開発を依頼するとともに、生イーストの品質を保つために不可欠な冷蔵物流の構築・強化にも力を入れています」(吉田社長)

インドの“パン業界の発展”に手応えを感じ、
さらなるラインアップ拡充をめざす

インタビュー画像

OY Indiaの参入前までは生イーストの需要が供給を上回っていたため、イーストを製造・販売する企業の顧客に対するサービスは十分ではなかった。しかし、現在はOY India参入によって買い手市場になっており、顧客を獲得し、つなぎとめるサービスクオリティも重要となってきた。そこで、OY Indiaでは積極的に顧客を訪問し、テクニカルサポートを含めた強固な関係構築を進めている。その結果、競合よりも高い価格設定をしているにもかかわらず、高品質の生イーストを安定供給できる点が高く評価され、本格稼働からわずか半年という期間でも売上を大きく伸ばしている。

「我々がインドに参入したことによって、競合他社も品質向上や安定供給への取り組みを強化し始めています。イースト市場の活性化はパンの品質向上に直結するので、我々がインドにおけるパンの品質向上に貢献できているという手応えを感じています」(田中さん)

「オリエンタル酵母工業が日本国内で発展してきた流れと同様に、インド国内においてイーストから製パン改良剤、その他の製品へと、製品ラインアップの拡充を図っていく方針です」(Sri副社長)

今後は、オリエンタル酵母工業が長年培ってきた技術やノウハウの提供を継続して、インドのパン業界の発展に貢献していくだけでなく、そこで得た知見をグループ内に展開していく予定だ。

「今後さらにインド国内でのシェア拡大を実現し、OY Indiaを発展させていくのはもちろん、将来的には日清製粉グループ各社のさらなる海外進出の足がかりになっていければと考えています」(吉田社長)

関連情報