読みもの / 食
magazine
2022.11.09 Wed

同じものを食べても、時間次第で効果が変わる!?時間栄養学でおいしく健康に ⑤(全5回)

時間栄養学の総決算!寿命のカギを握る「テロメア」を長持ちさせるには?

これまでお話してきた「時計遺伝子」のほかに、私たちの体にはもう1つ、時計が備わっています。それが「テロメア」。今回は老化や寿命のカギを握る「テロメア」をテーマに、健康で長生きする生活習慣をみていきましょう。

これまでお話してきた「時計遺伝子」のほかに、私たちの体にはもう1つ、時計が備わっています。それが「テロメア」。今回は老化や寿命のカギを握る「テロメア」をテーマに、健康で長生きする生活習慣をみていきましょう。

時間栄養学を無視した影響は、50代から現れる

朝食を食べずに過ごす影響は、若いうちはなかなか気づきにくいもの。すぐに太るわけでもないし、一気に血圧が上がるわけでもなく、自覚しづらいのですが、50代になってからその影響がはっきりと現れるようになり、気がつけば生活習慣病への道をまっしぐら、ということになりかねません。これには、遺伝子情報を伝える染色体を保護するために、その両端についている遺伝子「テロメア」が深く関わっています1)

健康長寿につながる「テロメア」とは?

「テロメア」は「時計遺伝子」とともに、時間栄養学の発展を支えているもう1つの時計です。ただし、「時計遺伝子」のように周期ごとに繰り返し刻む時計ではなく、やがて終わりがくる命の砂時計のようなもの。

染色体の両端にある「テロメア」は、通常、生まれたときに約1万塩基の長さを持っており、細胞分裂を繰り返すたびに短くなっていきます。おおよそ年平均50塩基ずつ短くなっていくとされ、5000塩基になると細胞が分裂できなくなります。

ところが急速な細胞分裂が生じるとテロメアの短くなるスピードも上がり、早くに細胞分裂ができなくなり老化します2)。細胞が老化した体の組織は機能低下し、生活習慣病にかかりやすくなるのです。

例えば、50代で同世代の人より1000塩基分「テロメア」が短い人は、通常の人に比べ心筋梗塞や脳卒中のリスクが3倍高くなります3)。つまり「テロメア」を長持ちさせることが長寿の秘訣といえるのです。

テロメアを長持ちさせる生活習慣

「テロメア」を長持ちさせる生活習慣は、簡単にいえば、時間栄養学に則ったバランスの良い食事と規則正しい生活につきます。暴飲暴食、喫煙、肥満、不規則な生活をおくるたびに、命の回数券「テロメア」を無駄づかいしてしまう、と考えれば、おのずと改善したくなるのではないでしょうか。最後に「テロメア」にとって何が良くて、何がいけないか、注意点をまとめておきましょう。

「テロメア」に良い食べ物、悪い食べ物
「テロメア」を長持ちさせる栄養素として、葉酸、食物繊維、ビタミンEなどが挙げられます。特に葉酸は、遺伝子に直接必要なビタミンの1つです4)。これらがたくさん摂れるのは全粒穀物や野菜、果物、豆類など。毎日、意識して摂るようにしましょう。一方、「テロメア」を縮めてしまう栄養素はリノール酸、飽和脂肪酸、脂肪分を調整していない全脂肪など4)。最近の研究では、加工度の高いジャンクフードを定期的に摂取することが、テロメアを縮める要因であることがわかっています5)

睡眠不足、肥満、ストレスは大敵
睡眠不足は「テロメア」にとって大敵。1日およそ7時間、良質の睡眠がとれるよう心がけましょう。また、肥満も「テロメア」を短くする要因なので、適度な運動習慣を身につけることが大切です。そして、過剰なストレスは「テロメア」の短縮を加速させます。気分転換、リフレッシュの時間をとり、ストレスをため込まないよう心がけましょう4)

このシリーズ(全5回)の他の記事を読む

①知らないと損!時間栄養学は、食べ方ひとつでもっと健康になれる"虎の巻”

②頭脳にもスポーツにも長生きにも深イイ関係 朝食を食べる、食べないで人生が変わる!?

③時間栄養学を実践!その1 食べ方や時間を変えてメタボ脱出計画!

④時間栄養学を実践!その2 いつ何を食べる?おいしくて健康に良い食生活とは

  • 1)Kagawa Y. From clock genes to telomeres in the regulation of the healthspan. Nutr Rev. 2012, Aug;70(8):459-71, doi: 10.1111/j.1753-4887.2012.00504.x.
  • 2)Aubert G, Lansdorp PM. Telomeres and aging. Physiol Rev. 2008, Apr;88(2):557-79, doi: 10.1152/physrev.00026.2007.
  • 3)Fitzpatrick AL. et al. Leukocyte telomere length and cardiovascular disease in the cardiovascular health study. Am J Epidemiol. 2007, Jan 1;165(1):14-21, doi: 10.1093/aje/kwj346.
  • 4)Cassidy A. et al. Associations between diet, lifestyle factors, and telomere length in women. Am. J. Clin. Nutr. 2010, 91(5):1273-1280, doi: 10.3945/ajcn.2009.28947.
  • 5)Maira Bes-Rastrollo, Amelia Marti. et al. Ultra-processed food consumption and the risk of short telomeres in an elderly population of the Seguimiento Universidad de Navarra (SUN) Project. Am. J. Clin. Nutr. 2020, 111(6):1259-1266, doi:10.1093/ajcn/nqaa075.
  • 6)田中明, 蒲池桂子. あたらしい栄養事典. 日本文芸社, 2016, p.169, p.179, p.145.

<監修>

香川靖雄

女子栄養大学副学長/自治医科大学名誉教授/栄養科学研究所所長