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2022.05.20 Fri

同じものを食べても、時間次第で効果が変わる!?時間栄養学でおいしく健康に ①(全5回)

知らないと損!時間栄養学は、食べ方ひとつでもっと健康になれる"虎の巻"

食生活は、長い人生を健康で暮らすために最も重要視すべきファクターの1つであり、私たちはこれまで、「何をどれだけ食べるか」に注目してきました。しかし、最近の研究から「何をどれだけ食べるか」に加え、「いつ、どのように食べるか」も非常に重要であることがわかり、時間栄養学という学問が確立してきました。第1回は、時間栄養学の概要をご紹介します。

食生活は、長い人生を健康で暮らすために最も重要視すべきファクターの1つであり、私たちはこれまで、「何をどれだけ食べるか」に注目してきました。しかし、最近の研究から「何をどれだけ食べるか」に加え、「いつ、どのように食べるか」も非常に重要であることがわかり、時間栄養学という学問が確立してきました。第1回は、時間栄養学の概要をご紹介します。

「いつ、どのように食べるか」が健康寿命を左右する

近年、肥満やメタボリックシンドロームに警鐘が鳴らされ続けています。その原因について、おいしいものを食べ過ぎていることだと思っている人も多いでしょう。しかし実のところ、現代人は、ひと昔前に比べ摂取エネルギーが減っているのに、肥満になる人が増えているのです1)

この不可解な現象を解明するきっかけとなったのが、1997年に発見された「時計遺伝子」の存在でした。人は通常、「朝起きて活動し、夜は眠る」という1日の周期で生きています。しかしもし朝日が昇らなくても、人の体はおおよそ1日の周期を知ることができます。これを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼び、体内時計ともいわれています。人の概日リズムは約25時間で、体の中に備わっている「時計遺伝子」が制御しています。一方で地球上の1日は24時間ですので、「時計遺伝子」は毎日、この1時間のズレをリセットして時計をあわせる役割を担っています。

こうした仕組みが解明される中で、食べ物や栄養も摂取する時間帯で効果や影響が大きく変わることが知られるようになってきました。そうして時間栄養学が発展し、「時計遺伝子」の仕組みにあわせた生活ができるか否かで、健康寿命を大きく左右することがわかってきたのです2)

体内時計をリセットするのは、「光」と「食事」

概日リズム、いわゆる体内時計を毎日リセットし、24時間周期に調整している「時計遺伝子」。その仕組みは、時間栄養学からみてとても重要です。

「時計遺伝子」は、大きく「中枢時計遺伝子」と「末梢時計遺伝子」の2種類に分けられ、両方が同時に作用することで初めて体は正常な1日の活動をはじめることができます。「中枢時計遺伝子」は脳の視神経が交差する場所にあって、光が入ってくることで体を覚醒させる働きをします。一方「末梢時計遺伝子」は各細胞にあって、栄養が行き渡ることで1日の「時」を刻みはじめます。

つまり、体内時計をリセットするには、朝日を浴びるだけでなく、朝食が欠かせないのです。また、2つの時計遺伝子は同時に作用することが大事なので、朝食は起床から2時間以内に摂りましょう3)

しかし、朝起きて活動し、夜眠るという生活ができない夜間勤務やシフトワーカーの人たちはどのように調節すればよいのでしょう。例えば夜間勤務の場合、自分の活動時間を「昼」と捉えて、起きて2時間以内に朝食を摂り、昼に睡眠をとるときは、遮光カーテンで光を遮り「夜」を作り出すようにします4)。ちなみに体内時計をリセットする「光」は太陽光の中の青い波長の光ですので、夜勤のために夜に起きたときは、蛍光灯でも青白い光のものを選んで浴びるようにすれば、体は「朝」だと認識し、「中枢時計遺伝子」によるリセットを誘導することもできるのです5)

規則正しい「食のリズム」は疾患予防に役立つって本当?

人の多くの生理機能や疾患にも、概日リズムが深く関わっていることが知られています。例えば脳梗塞発症の時間とその数を調べた研究では、最も起こりやすい午前8時の発症数は、最も起こりにくい午前0時と1時の11倍もあるとのデータが示されています6)7)

人におけるさまざまな生理機能や疾患の起きやすい時間帯6)

こうした血管の中で血液が固まって詰まってしまう血栓症関連の疾患では、最近さまざまな研究がなされており、食のリズムが崩れることで血栓症を防ぐ働きをするたんぱく質の分泌リズムが乱れ、発症リスクを高める一因になることが判明してきました。このことから規則正しくほぼ同じ時刻に朝食を摂ることが、疾患の予防や管理をする上でいかに大切かがわかります。

また疾患と概日リズム、「時計遺伝子」の関係が明らかになることで、医療現場においては、より細かな投薬時間の工夫をしたり、血液の粘度を下げ血液凝固を防ぐ飲水の時間を工夫するなど、さまざまな活用の可能性が広がっています8)

  • 1)厚生労働省. 国民健康・栄養調査.
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html , (accessed 2022-3-14).
  • 2)Potter GD, Cade JE, Grant PJ, Hardie LJ. Nutrition and the circadian system. Br J Nutr. 2016, 116(3):434-42, doi: 10.1017/S0007114516002117.
  • 3)Kagawa Y. From clock genes to telomeres in the regulation of the healthspan. Nutr Rev. 2012, Aug;70(8):459-71, doi: 10.1111/j.1753-4887.2012.00504.x.
  • 4)Patrick M Fuller, Jun Lu, Clifford B Saper. Differential rescue of light- and food-entrainable circadian rhythms. Science. 2008, May 23;320(5879):1074-7, doi: 10.1126/science.1153277.
  • 5)Wahl S, Engelhardt M, Schaupp P, Lappe C, Ivanov IV. The inner clock-Blue light sets the human rhythm. J Biophotonics. 2019, Dec;12(12):e201900102, doi: 10.1002/jbio.201900102.
  • 6)香川靖雄, 柴田重信, 小田裕昭, 加藤秀夫, 堀江修一, 榛葉繁紀. 時間栄養学―時計遺伝子と食事のリズム. 女子栄養大学出版部, 2009年初版, 2016年第6刷, p.57.
  • 7)Casetta I, Granieri E, Fallica E et al. Patient demographic and clinical features and circadian variation in onset of ischemic stroke. Arch Neurol. 2002, Jan;59(1):48-53, doi: 10.1001/archneur.59.1.48.
  • 8)香川靖雄, 柴田重信, 小田裕昭, 加藤秀夫, 堀江修一, 榛葉繁紀. 時間栄養学―時計遺伝子と食事のリズム. 女子栄養大学出版部, 2009年初版, 2016年第6刷, p.110-112.
監修

女子栄養大学副学長/自治医科大学名誉教授/栄養科学研究所所長

香川靖雄